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テンプレ・レベルから徹底的に検索除けをかけているので、ここへは一般のお客様は入れません……多分(笑)
「でも、どちらにせよ、もうしばらくは病室にいて」
「西脇さん……」 「せめて、その顔の傷が治るまででもいいから。あと数日もすれば、絆創膏も外していいって言われてるだろう? そしたら、一緒に出かけようよ。な?」 あえて、甘えるように言って。 ずるいのは自分でも分かっている。でも、そうすれば、人のいい橋爪のこと、自分の言葉を拒絶できないから。 「……分かりました」 案の定、橋爪は渋々と頷いてくれる。 「うん」 そっと髪に触れ、そしてその痩身を解放した。 「……戻れる?」 「……ここを片付けたら……」 西脇は橋爪が片づけ広げていた書類を片付けるのをじっと見ていた。いつもなら、こんな風に橋爪の退勤を待つのもわくわくとしたものだったが。 「……どうした?」 ふと手を止めて橋爪が西脇を見やってきた。 「……私……」 「うん? 何か手伝う?」 「……私……ここに戻ってこれるのでしょうか……」 「どうして……」 どうしてそんなことを聞くんだ? そう問いかけそうになって、慌てて口を噤んだ。 橋爪の不安は分からないでもないから。何度も怪我で長期休養を余儀なくされた西脇だからこそ、それが分かってしまう。 今はまだ数日休んだにすぎないが、このままずるずると過ごしていたら、ここに自分の居場所がなくなってしまうのではないかと怯えているのだろう。 全ては西脇の憶測でしかないが、あながち間違っているわけでもあるまい。 「大丈夫。紫乃が戻りたいと言えば、戻れるよ。それに、辞めろっていう話なら、とっくの昔にここを追い出されているんじゃないのか? 宮沢さんだってそんなことは言っていなかっただろう?」 「そう……確かに、そう……」 西脇はそっと橋爪の手を取った。 「さっきはきついことを言ってごめん。でも、紫乃にはここに戻ってきて欲しいから……だから、今はそのために休んでいる。それでいいじゃないか」 深く深く橋爪が頷く。 橋爪を説得しつつも、自分自身へとそう言い聞かせている。自分だけが取り残される、そんな焦燥感を必死に打ち消して。 「……西脇さん、帰れます」 橋爪がゆっくりと口を開いた。 「健診に必要なファイルは揃えましたし、多分、大丈夫……」 「……そうだな。あとは堺医師達にしばらく任せよう」 軽く引き寄せ、額にそっと唇を押しつけた。 捕らわれた狭い世界の中で必死に足掻くのもいい。闇に見入られ、光を見失っても構わない。ただ、橋爪紫乃という存在がこの手の中に残るのなら、それで十分だ。 病室に戻り橋爪をベッドに入らせ、西脇はようやく安心した。 きっとこの存在を手放すことはもうできない。自分の目の届く範囲での自由を橋爪に与えるだけになっても。 そうでもしなければきっと、自分の方が狂ってしまう。橋爪の存在に依存しなければ、自分という存在すら確立できないほどに …… いつから自分はこんなに弱くなってしまったのだろう…… PR この記事にコメントする
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