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そっと自分を揺り動かす手に気が付いたのはどれくらい経ってからだったろうか。あるいはさほど経ってはいなかったのかもしれない。 「……西脇さん……」 どんな状態でも間違うはずもない恋人の声にハッとし、慌てて起き上がった。ぐらりと酩酊めいた眩暈が西脇を襲い、座面へとまた戻る。 「寝るならベッドに行って……」 「紫乃……?」 「はい」 「どうして―――」 「……三浦医師に、無理を言って連れてきてもらったんです」 橋爪はわずかに目を伏せた。先ほどの自分の不調を三浦から聞いてしまったのだろう。 「……いろいろお疲れだったんですよ……今だけでもゆっくり休んで……」 「……まったく、余計なことを」 「……三浦医師を叱らないでやってくれませんか。無理に聞き出したのは私ですから」 ソファの傍らに膝をつき、ひやりとした橋爪の掌が西脇の額へと押し当てられる。 その手に手を重ねた。一瞬びくりと硬直したものの、橋爪は西脇のしたいようにさせてくれる。 「……気持ちいいよ」 「……よかった……」 橋爪の頬がゆっくりと緩む。 「……あなたは謝るなというけれど」 橋爪は目を伏せたまま、そっと呟いた。 「……それでも、あなたにここまでの負担をかけたのは私なんですよね。だから、今だけは謝らせてください」 自分の心は橋爪には届いていなかったのか。 ふとそう思った。 橋爪のせいではない。繰り返し言ってきたこと。彼が罪悪感や後ろめたさを感じることなど何一つとしてないというのに。 「……勘違いだよ……」 「……え?」 「ただの軽い熱中症。少し寝てれば大丈夫―――三浦医師、そういっていなかった?」 「……疲れが溜まると、熱中症にもなりやすくなるものです。だから……」 橋爪の手を外し、ソファにそのまま足を投げ出した。真っ直ぐ見上げると、橋爪は怯んだように目をそらした。 「疲れているのは長期出張明けで、そのまま連勤したから。でも、こうして休む時間を取ったんだ。紫乃が……Drが気に病む必要はない」 橋爪も気持ちを完全に無視した言葉だということは、自分自身がよく分かっている。ただ、橋爪にはぐずぐずと引きずってほしくはないから。それとこれとは全く別の問題だから。 その頭に軽く手をのせ、かつてと同じように髪をひと房すくい取り滑らせた。パラパラと落ちていくのは髪だけではなく、自分の心の中の何かかもしれない。 「……でも、少ししんどいのは正直なとこ。だから、今夜はごめん。一人で眠らせてくれないかな」 今の橋爪の気持ちは重荷でしかない。その心配がよけに西脇の心を重くする。 「……じゃあ、私がこっちで休みますから、西脇さんがベッドに」 西脇は顔を腕で覆い、ゆるく首を振った。 「……ここでいい。今は移るのもしんどいから」 「けど」 「紫乃……っここに泊まるのならベッドを使って」 「西脇さん……?」 「……ごめん」 そのまま西脇はソファの上で橋爪に背を向けた。言葉を口にするのも今は辛い。だけど、言葉にしなければ伝わらないこともある。 橋爪の心配が重荷に感じてしまう日が来るなんて思ってもいなかった。橋爪の存在を渇望しているのに、その存在を疎んじている自分がどこかにいることになど気が付きたくはなかった。 PR この記事にコメントする
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