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テンプレ・レベルから徹底的に検索除けをかけているので、ここへは一般のお客様は入れません……多分(笑)
気づけば、医務室のベッドに寝かされていた。
部屋は薄暗く静まり返っている。嗅ぎ慣れた消毒薬の匂いだけが、そこが通い慣れた場所だと知らせているにすぎない。 「……A室の方、か……」 でなければ、もう少し人の気配や騒めきもあるだろう。 西脇は起き上がると、途端に頭を抱え蹲った。吐き気を伴う重苦しい痛み。全身を包む鈍い倦怠感。先ほどまでの状態からは考えられないほどの不調だった。 先ほどまでのことはおぼろげにしか覚えていないが、麻酔かそれに類する薬品で無理やり眠らされたのだろうことは容易に想像できる。鎮静剤などといった生易しいものなんかでは決してない。 いくらか呼吸を繰り返すと、それでも僅かながらそれが回復し、僅かに周囲に気を向ける余裕も出てくる。 ぐるりと周りを見渡せば、枕元にメモが置いてある。 『目が覚めたらナースコールで連絡して下さい』 名前は書いていないが大き目の癖のある字はきっと三浦のものだろう。 西脇はゆらりと立ち上がると、ベッドの周りのカーテンを開けた。無人のままのその部屋は、確かに橋爪が居城としていたA室だった。僅かに灯されている明かりだけが足元を照らす。カーテンが閉められた窓の外は先程までとは違い完全に闇の中に沈んでいるに違いない。 「西脇さん!?」 僅かな物音に気付いたのか、村井が慌ててA室に入ってきた。 「起きて大丈夫ですか?」 「……大丈夫じゃない……」 愛想笑いを浮かべる気力もなく、西脇はぼそぼそと呟いた。 「とりあえず、ベッドに座ってください……あ、三浦医師」 「うん。西脇さん、いきなり動いたらきついでしょ。ベッドに戻って……ゆっくりでいいから」 西脇は無言のままベッドに腰かけた。 「村井君、隊長に連絡して。きっとまだ起きて待ってると思うから」 「あ、はい」 村井が部屋を出ていくと、三浦は小さく息を吐いた。 「西脇さん、少し診せてもらってもいいかな? できたらシャツを肌蹴て……肩、見たいから」 痛みの元はそこだったのかと何となく思い、無言のままシャツのボタンを外し、下着代わりのTシャツももろとも勢いよく脱ぎ捨てた。 「脱がなくてもよかったんだけど……今更か。失礼」 三浦はゆっくりと西脇に触れた。ヒンヤリとした三浦の指が西脇に悪寒をもたらす。 「……痣にはなってないね、よかった。少し熱は持ってるみたいだけど、しばらくすると落ち着くから」 じろりと見やると三浦は苦笑した。そして、西脇が脱ぎ捨てたシャツを肩から掛けてきた。 「頭痛はない? 吐き気は?」 「……最悪」 「だよね……麻酔銃で撃たれたの、覚えてる?」 「……覚えてはいないが、そうだろうとは思った」 そうとしか言えない。実際、その瞬間のことを思い出すことはできない。何となく自分の行動の記憶はあるが、詳細を思い出そうとすると脳内に霞がかかったかのようにすべてが曖昧になる。覚えているのは目の前にいたテロリストへの憎しみだけだ。何故、いつものテロリストと相対する時とは違い、そんな憎悪を感じてしまったのか…… 「……頭痛と吐き気があるのは少し我慢して。しばらくすると抜けて楽になるから……使われた麻酔薬は強いものじゃないし、多分、朝には完全に抜けてると思うよ」 「……そうでないと困る」 西脇はゆらりと立ち上がった。そんな西脇を三浦は怪訝そうに見上げてきた。 「西脇さん?」 「……トイレくらい行かせろ」 「あ、ああ、そうだね。じゃあ、終わったらB室の方にいいかな?」 「……分かった」 どこか現実感に乏しい会話をし、西脇は用を足した。確かに自分のいる場所はここなのに、それでもどこか違和感を感じるのは薬のせいか。 手を洗い鏡を見やると、目だけがぎらついた違和感のある男がそこに立っているだけだった。それは紛れもない今現在の自分自身の姿なのだろう。 PR この記事にコメントする
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