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「西脇さん、ちょっと待ってよ」
自分の強い口調や行動に驚いたのか、紫茉が慌てて割り入って来た。 「ねえ、紫乃。じゃあ、他に何か欲しいものない? 売店で買ってくるから。せめて、何か飲もうよ……ね?」 「……だから、いらない。ほんとに欲しくない」 「そんなこといわないで……本当に美味しいのよ。食べなきゃ、元気も出ないわよ……?」 「……うん、分かってるよ。でも、ごめん……あとでちゃんと食べるから」 頑なに首を振って、そして微笑んで。紫茉はきつく唇をかみ黙り込んでしまった。 そんな橋爪の微笑が、ただ頬に貼り付けただけの能面に見えるのは西脇の穿ちすぎだろうか。 「……一口でもいいから食えって言ってるだろう? そう約束したよな?」 西脇は橋爪の枕元に詰め寄った。 姉がいるから自分が遠慮して手加減するとでも思ったら大間違いだ。 「食いたくなきゃ、口移しでも無理矢理飲み込ませるぞ」 そんな西脇のセリフに反応したのか、橋爪は全身にぎゅっと力を込め顔を背けた。西脇はそんな橋爪の顎を掴み、無理矢理に自分の方へと向けた。シーツの上にぱさついた髪が広がる 「食うよな?」 それでも橋爪はきつく目を閉じ、西脇の言葉を拒絶している。 紫茉が見ていたところで構わない。これが今の橋爪と自分の関係であり距離感なのだから。 「西脇さん……」 紫茉の困惑した呟きは無視して、そのまま橋爪の腕を掴んだ。強引に引きずり上げると、そのまま浮かび上がった橋爪の体は別の方向へと倒れた。眉をしかめ唇を噛み、西脇にきつく掴まれた腕の痛みにぎゅっと耐えている。 「いいから、起きろ。ほら、ちゃんと座れって」 肩を掴み、嫌がるかのように足をばたつかせる橋爪をベッドヘッドへと押し付けた。腰元の枕を取り払って深く座らせた。 「西脇さん、もういいから。やめて……」 「駄目だ」 見かねて制止しようとする紫茉の言葉にも応じることは出来ない。ただ、もう必死だった。自分の想いだけで精一杯だった。 「ちゃんと食え。今食ったら、晩飯はもう無理強いしないから……だから、頼む。紫茉さんの前でちゃんと食ってくれ」 肩を掴み、橋爪を真っ直ぐに見据えて。紫茉が怯えたように西脇を、そして橋爪を交互に見遣る。 「西脇さん……」 橋爪も自らの体を緩く抱きしめ、怯えたように西脇を見上げている。 「……どうしたら、お前はちゃんと言うことを聞いてくれるんだ? そんなに俺は無理なお願いをしているわけじゃないだろ?」 深い溜息が知らず漏れる。 「そんなこと……」 「こんなに頼んでも? 飯を食って、小便して糞して。そんな生きてれば普通のことをお願いしているだけだろ? それとも、土下座してでも頼まなきゃ聞いてくれないのか?」 自分の方の唇が震える。目頭が訳もなく熱く視界が僅かに潤んで滲む。 「どうしたらいいのか、教えてくれ。俺がいない方が食えるというなら出て行くから」 「……そんなつもりじゃ……ただ、本当に今は食べたくないから……」 「だったら、いつなら食べる気になるんだよ……朝もろくに食ってないのに」 橋爪はゆっくりと目を逸らした。 ベッドの横に寄せてあったベッドテーブルを紫茉がそっと橋爪の前に出した。 「……紫茉さん?」 「……それには西脇さんにちょっと賛成かな、と思ったのよ」 そして、用意された器からいくつか料理を小ぶりの皿に移すとテーブルの上に置いた。そしてスープとお茶も用意して、最後に橋爪に強引に箸を握らせた。 「紫乃、食べなさいよ」 優しく静観していた姉にまで促され、橋爪は箸を握り締めた。その手を紫茉がゆっくりと握った。 「食べて」 「……自分で食べる」 俯いたまま橋爪はゆっくりと煮物を箸で摘んだ。西脇と紫茉が凝視する中口へと運ぶと、それを小さくかじり取った。 「紫乃……?」 何度も何度も咀嚼し、泣きそうな表情を浮かべて必死で嚥下する。 そこまで食事や排泄を拒絶する心理、西脇には受け入れられない。 人は霞を食べて生きているわけではないのだから。 PR この記事にコメントする
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