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テンプレ・レベルから徹底的に検索除けをかけているので、ここへは一般のお客様は入れません……多分(笑)
半分涙を浮かべつつも橋爪がようやく3口ほど食を進めた時、西脇のインカムが鋭い呼び出し音を立てる。
「……はい、西脇」 『お食事中すみません、羽田です。西側外周より火炎瓶の投げ入れを確認。すぐに爆班への協力要請、班員を向かわせました』 「……了解。すぐ行く」 西脇はすくっと立ち上がった。つられて紫茉が西脇を見上げる。 「テロのようだ」 そして、僅かに緩めていたネクタイを締め直す。 「紫茉さん、帰宅は少し待ってて。すぐ処理できるとは思うけど、万が一ということもある。大丈夫になったら連絡入れるから」 「分かったわ。気をつけて」 何度もテロの事後処理に遭遇している紫茉は、言葉を重ねなくても状況を分かってくれたのだろう。今、詳細を問い正すことより西脇を送り出すことが先決なのだと。 「紫乃、行ってくる」 橋爪はごく小さく頷いた。 「心配しないで……紫茉さんを守ってあげて」 「……気をつけて」 硬直し僅かに青ざめた表情を橋爪は浮かべていた。冴えない顔色は、自らの身に起きたことを思い起こしているためか。それでも、橋爪はいつもと同じように送り出してくれようとしてくれる。 テーブルの上の箸を握り締めた手にそっと触れた。 今、それだけが西脇に出来る精一杯だったから。 はっとしたように橋爪が西脇を見上げた。西脇は手を引いて紫茉に軽く会釈するとそのまま病室を飛び出した。 処理は手順通りに順調だった。一般の見学客や通行中の議員や関係者などの避難誘導もスムーズに行われた。 投げ込まれた爆発物の数が小物とはいえ多かったため爆班の処理に時間がかかったくらいで、それほどの被害もなく大き目の爆発は数度で済んだのも不幸中の幸いだった。 犯人は愉快犯目的の暇を持て余した大学生達だった。 大した目的もなく、ただ周囲を混乱させ慌てふためくのを見て楽しむ、それだけのことだったようだ。 ただそれだけの為だけに、周りを巻き込む。 ひどく腹立たしくて、ひどく虚しくて。 そんな連中の行動のために橋爪が被った心の傷を思えば、目の前の連中がその当人であろうとなかろうと更に腹立たしさは増すもので。 その連中を叩きのめし、同じだけの屈辱や絶望感を味あわせたい。そんな衝動で支配され、どす黒い感情が渦を巻く。 それを必死で押し止めたのは自分の仕事へのプライドと、何より病室にいる橋爪の存在だった。 ただ必死で拳を握って湧き上がる衝動を耐えて、何度も深呼吸を繰り返しいつもの顔を取り戻した。 「……警察への引渡しを頼む」 たったそれだけの言葉を発するのにどれだけの理性と体力を消耗したか。 「了解です」 班員に後事を託し、外警監視室に入った。 「お疲れ様でした」 「……ああ」 西脇はぞんざいに返事をするとモニターを眺めた。やや遅れてきた警官達と隊長たち、そして班員が現場の処理に立ち会っている。 「西脇さん、現場検証に立ち会わなかったんですか? 珍しいですね」 「……隊長たちも来たからな、そう何人もいらんだろ。状況も確認しておきたかったし」 記録ディスクの新しいものを出して、今までのものと差し替える。 「現場検証が終わったら戒厳令解くから医務室に連絡入れてくれ。見舞い客がまだいる」 「それは構いませんが」 「……西門外周……っと」 抜き出したディスクをセットし直すと、その中身を検索し目の前のモニターに映像を導き出す。 一旦現場から離れて冷静にならなければ、心の冷静さを取り戻すことなど出来なかったから。 きっと、あのままでは橋爪にもきつく当たってしまうだろう。やるせなさと嫌悪感を抱えたまま、八つ当たりに近い状態で。 タッチパネルに触れる手が震えているのにふと気付いた。慌ててデスクの下にそれを隠してぎゅっと握り締めた。ここにいる班員の誰にも、こんな自分の弱みは見せたくはない。 どうあっても、何をしていても、橋爪という存在にとらわれている自分がいることに気がついてしまった。 きつく拳に力を込め、西脇は厳しい顔でモニターを睨み続けた。 PR この記事にコメントする
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