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テンプレ・レベルから徹底的に検索除けをかけているので、ここへは一般のお客様は入れません……多分(笑)
「それ、幼児退行してるってこと?」 「……少しだけ、そんな気がしている。はっきりそうだとまでは言い切れない」 「うん、そっか……」 紫茉は俯き、深い溜息をついた。 「いつも見てる西脇さんがそう思う言動をしてるってことだよね」 「……ああ。ただのガキっぽい仕草とかじゃなくて―――上手くはいえないし、紫乃相手の子供っぽい仕草なら、むしろ俺の方がそうなんじゃないかと思うが」 「西脇さんの場合、恋人に甘えてるってだけでしょ。他の人には見せられないけれど」 紫茉は小さく笑う と立ち上がった。そして、橋爪の元に歩み寄り、彼の顔を覗き込んだ。 「……紫乃がもう少し落ち着いたら、心療内科に行くのもいいかもしれない」 「それは、紫茉さん……」 それは、橋爪が心の病を抱えているということだろうか。いや、実際に抱えてはいるが、自分の力では解決できないようなことなのだろうか。 「心身症なのか、鬱なのか、それとも他の要素があるのか、私にも分からない。内科の紫乃ならもう少し詳しいかもしれないけれど、さすがに門外漢だしね。私も堺先生も、そして三浦先生も……」 橋爪の頬にそっと触れて、涙の伝った跡を指でそっと拭う。いつの間にか、また橋爪は眠りつつ涙を零していたのだろう。 「それに病気でなくても……知っている人、親しい人にだからこそ話せなかったことも、知らない人になら話せると思うし楽になるかもしれない」 「……そうかもしれない」 きっと紫茉は、橋爪の抱える心の闇の存在も分かっている。そして、近しい間柄だからこそ、それに触れることが出来ないことも。 「……カウンセラーなら、当てはある。ここはそういう場所だし」 仕事上、人の心の醜い部分にどうしても触れることになる。そして人の死に直面する事だって、一般人よりは遥かに多い。 自分だってそうだ。初めて人の死に直面した時、平静ではいられずに嘔吐してしまった。 人の死に限らず、心のバランスが何かの拍子に乱れてしまう事だってないとは限らない。だからこそ、提携しているカウンセラーもいる。 でも、そんな西脇の言葉に紫茉は首を振った。 「……できれば、紫乃の知らない人がいいかもしれないわね……あ、紫乃?」 ふと見れば、橋爪が眩しそうに目を眇めたところだった。まだ、完全には覚醒していないのか。 「……紫茉……?」 「ふふ……おはよ、紫乃」 「……ん……」 眠そうに腕を上げ、顔を覆った。そして緩く首を振る。まるで起きるのを拒んでむずがる子供のようだ。 「紫乃、起きて。ほんと、お寝坊さんなんだから」 僅かに笑みを含んだ声で紫茉がその腕にそっと触れる。だが、橋爪はそれにすらびくりと反応し体を強張らせた。紫茉が相手だと分かっているのにもかかわらずだ。 「紫乃」 「……ごめん、紫茉……」 「ううん、いいわよ。ほら、起きて。西脇さんも来てるよ」 「あ……その……」 橋爪は怯えたように唇を震わせた。いや、完全に怯えているのだ、自分の存在に。 「……紫乃ったら」 「……いいよ」 西脇は小さく呟いた。 僅かに目を開き橋爪はようやく西脇の姿を見、そして息をつく。存在を認識し、覚悟を決めてからでければ自分に相対することも出来ないのかもしれない。 起きている時ならともかく、こうした目覚めのときは無防備にもなるのだろうから。 「……西脇さん……仕事は……?」 「ああ、今、休憩だ」 「……そう……」 「ね、紫乃も一緒にご飯にしましょ? 今、ちょうど頂いていたところなのよ」 「……私はいいよ。二人で食べてよ」 僅かに笑みを浮かべて、橋爪は姉を、そして西脇を見遣った。起き上がろうとはしない。 「ずっと寝ていたから、お腹も減ってないし……」 「じゃあ、スープだけでもどう? すっごく美味しいのよ」 橋爪は首を振った。 「紫茉が食べて」 「紫乃……」 「紫乃、いいから起きて食べろ。一口でもいいから」 「や……っ」 引きずり起こそうとその腕を掴むと、反射的に橋爪はその手を払った。そして呆然としたように己の手を見つめた。 PR この記事にコメントする
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