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「はい?」 いつもの通りに無言だろうと思えば、今日は女性の声での応えがあった。帰ったとは聞いていなかったが、やはりその通りで。 「紫茉さん、お邪魔するよ」 堺もそう言って病室に入った。 橋爪はただ膝を抱えて俯いていた。 「ほら、紫乃。堺医師たちよ……」 紫茉の言葉に橋爪は小さく頷いた。 「紫茉さん、ゆっくり話せたかい?」 「ええ、まあ……」 言葉とは裏腹に紫茉はゆっくりと僅かに首を振った。 「そうか……」 橋爪の目元が濡れて腫れぼったくなっているのは、姉の前で泣いていたのか。 あれだけ罪悪感を感じることはないといい、それを橋爪も分かってくれたはずなのに。それなのに、未だに涙が乾かない。 「……宮沢さん……?」 そして、ふと橋爪が宮沢の存在に気付く。橋爪をじっと見つめていた宮沢が頷いた。 「経過を伺いに来た」 「……すみません。ご迷惑をおかけしました……」 橋爪は目を伏せたままゆっくりと口を開いた。 泣き腫らした目と頬、そこに浮かぶ幾つもの絆創膏……宮沢だとて橋爪がいつもの状態ではないというのは分かるだろう。 「あまり体調はよくないようだな」 「……すみません……」 「謝ることではない」 言い切った宮沢に怯えたように、橋爪はびくりと身を竦めて自らの腕で自分の体をきつく抱きしめた。袖から覗く腕にも傷跡が浮かぶ。 ただ、はっとしたように身動ぎし、せめてもとベッドの上で姿勢を正そうとした。握り締めたままのその拳が小さく震えているのは恐怖ゆえか、それとも自由に動かない自分の身体を歯がゆく思っているせいなのかもしれない。 「体調が悪いのならそのままで結構」 他の隊員たちと同じ応酬。宮沢にとっては極自然で他意はないセリフなのだろうが。 「すみません……」 橋爪は萎縮してしまい、すっかり項垂れてしまった。 西脇はそんな二人の様子を見て小さな溜息をついた、その一瞬紫茉と目が合った。 宮沢や堺の手前大人しくしているだけだが、きっと紫茉の胸中ではいろいろな思いが交錯しているのだろう。 「その様子では、今すぐどうこうという状態ではないな。その傷では診療される方も気の毒だ」 「……はい」 橋爪のことを下手に庇うことは出来ない。そんな自分の不甲斐無さにも腹が立つ。実際、宮沢の言うことにも一理あるから。 「……怪我が落ち着き次第、すぐにも戻るつもりではいますが……」 そして、それに応じた橋爪の言葉はまるで宮沢の歓心を得、媚を売る以外の何ものでもなかった。 橋爪にそんな気がないということはよく分かっているはずなのに、それでもだ。 西脇は目を伏せ、体の脇に沿わせていた拳をきつく握り締めた。 堺と宮沢の応酬に橋爪は言葉少なに応じ、紫茉が口を挟む。そんな普通の状況に出さえ腹立たしくもある。 ただ西脇にはそれをどうすることもできず、ただ入り口近くにに下がって見ている事しか出来なかった。まるきりSPと同じ……いや、今のこの立ち位置ではSP以下のものでしかないだろう。少なくとも岩瀬なら、まだうまく立ち回ることだってできるのかもしれない。 「では、失礼する」 そう締めくくった宮沢の言葉にはっと我に帰った。 「きちんと静養して、早く治したまえ」 「……はい」 橋爪はゆっくりと頭を下げた。 「あ、あの、宮沢さん」 そして、橋爪が意を決したように頭を上げた。必死で拳で自分のシャツを握り締める、そんな姿が痛々しい。 「あの……今日はありがとうございました」 「いや……失礼する」 宮沢の口元にうっすらと笑みが浮かぶ。それも瞬時になくなり、入り口へ向かって踵を返した。 「お送りします」 「ああ」 そして、堺へと頭を下げて部屋を出た。 「西脇、わざわざ待っていることもなかったのではないのか?」 「……来客を案内するのは隊員の務めですし。外警の隊員の様子も知りたかったので一石二鳥です」 「西脇はテロのときには日本になかったのだよな」 「はい、ロスで研修を受けさせていただいていました」 「西脇は確か、橋爪医師とも親しかったよな……」 「……石川ほどではありませんが。寮の部屋も同じですので、それなりには」 「そうか……」 宮沢は一瞬目を伏せた。そして、ちょうどやってきたエレベーターに二人で乗り込んだ。 PR この記事にコメントする
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