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「……あんまり休めてないんじゃない? 紫乃もあなたも」
ため息とともに紫茉は西脇を見上げてきた。冗談めかして誤魔化すことは簡単だけど。 さっきも紫茉は、自分に対して顔色が悪いとはいったが、橋爪のおまけとしてでも本気で心配してくれているのは分かるから。 「……俺はそれなりに休んではいるけど」 「……それならいいわ……」 嘘ではない。うとうととでも、悪夢に魘されてでも、確かに睡眠はとった。体を休めてなお、 「あら……美味しそうな匂いね」 気を取り直したかのように紫茉はにっこりと笑って、西脇が食事を置いたローテーブルの前に先ほどまで座っていた小さな椅子をずるずると引っ張っていった。 「紫茉さん、ソファに座ればいいのに」 「西脇さんが座ってよ。休み時間の間くらい、ゆっくり休んだら?」 「……そうだな」 西脇はそのままどっかりと腰を下ろした。ソファは少し硬めだけれども、それでも一旦座り込んで背を預けてしまえば、もう立てる気がしない。 「……お茶、入れてくるわね」 「スープならあるよ」 「あー、じゃあ、いただくわ」 紫茉は引き寄せた椅子に腰を下ろした。そして、一つずつゆっくりと容器の蓋を開けていく。 中は一口大の小さく丸めた握り飯と、一口大に切りそろえられた煮物など。頼んですぐできるものではないから、きっとこのためにと早めに用意してくれていたのかもしれない。 「……ん、柔らかい」 「紫乃の胃に負担かけないように、だろ」 西脇はぼそぼそと呟くと、ふわりと焼かれた卵焼きを口に放り込んだ。美味い、とは思うのに、なかなか箸が進まない。空腹感さえそれなりに感じているのにもかかわらずだ。 「……ねえ、紫乃、あんまり食べてないんでしょ? ちょっと見ない間にかなり痩せたから」 「ああ……最初に比べれば、それでもマシなんだがな。俺が帰国したときには、丸二日か、飲まず食わずで点滴だけで生きていた。意識も混濁していたらしいしな」 「……そっか」 小さく紫茉は目を伏せた。 「それでも、少しは食べれるようにはなったってことでしょ。今度は、紫乃が食べれそうな、あの子の大好物でも差し入れするわ」 「……頼もしいな」 「……そんなんじゃないわよ」 紫茉まで西脇につられて箸を置いてしまった。 「本当は、堺医師さえ頷いたら、紫乃が何と言おうとも実家に連れ戻そうとは思ってたけど」 「紫茉さん、それは」 「うん、でも、今は止めとく。紫乃はそれでもここがいいみたいだから」 きっと紫茉は、自分がここにいない間に、橋爪に転院を進めたにちがいない。実家に戻って、紫茉の勤務する病院か、もしくは他の病院か。それは分からないが。 紫茉の目は優しく橋爪を見ている。 「あんな頑固な紫乃、初めてだったかもしれない。そりゃ、昔から頑固だったけど」 そう笑う紫茉の笑顔はどこか物悲しい。 そういう自分は、愛想笑いさえ浮かべられないでいる。 「……確かに頑なだよな」 「寝てれば、こんなに天使みたいなのにね」 二人でそっと笑って、あどけない顔で眠る橋爪の顔を見やった。こちらに顔を向けて、少年のように無垢な表情を浮かべて、無心に眠りを貪っている。 自分が劣情を誘われるような、いつもの穏やかに笑みを浮かべる、大人の男の寝顔ではない。眠っている表情までもが、こんなにまで面変わりしてしまうのか、というくらいに変わり果てている。 もっとも、それでも苦悶の表情を浮かべているよりは余程ましだが。 「……少し、幼児返りしているのかもしれないな」 西脇はゆっくりといった。 PR この記事にコメントする
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