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『お疲れ。さっきはご苦労様。どうしたんだ?』
インカムの向こうの声が僅かに笑みを帯びる。 「宮沢さんからの話で相談があるんだが」 『……分かった。今、どこにいるんだ?』 「今から昼飯してくる。あとで、石川の手が空いてからでいい」 もう一度、橋爪に会って―――そして、決心しよう。ひょっとしたら、この僅かな時間の間でも事態が好転しているかもしれないから。 現実にはありえないことだとは分かっていても、そう願ってしまうから。 『おまえな……まだ行ってなかったのか? もうすぐ3時になるぞ? ほとんど夕食だな』 石川が呆れたようにいうのも道理だろう。しかし、朝食をほとんど取っていないのにもかかわらず、未だに空腹感を感じていないのも事実だから。それでも、橋爪が待っているのかもしれないと思えば、重い腰もなんとか上がる。 「お前んとこ行って、そのあとすぐに宮沢さんが来ただろうが」 『宮沢さんが帰ってから、小一時間あっただろ。その間だって行けたんじゃないのか?』 笑いながらそう返してくる石川は、勿論その間に遅めのランチを済ませたに違いない。 「途中の仕事があったからな……堺さんと話し合う前に、お前と少し相談したい」 『了解了解。Drのことだろ? あとで様子見て監視室に行く』 「頼んだ」 そして、通信を切った。そのまま携帯を取り出すと、履歴から番号を呼び出す。ややあって応じたのは、もちろん橋爪の姉だった。 「……紫茉さん? 西脇です」 『……分かってるわよ』 「……まだ、病室にいるんだろ? 紫茉さん、昼飯は?」 『……何となく取りそびれてる。何、奢ってくれるの?』 小さく紫茉が笑う。きっと橋爪の様子に気を取られ、ずるずると時間を過ごしてしまったのだろう。 「……それは今度にして。とりあえず適当に食堂から持っていくけど、リクエストは?」 『ないわ。任せる』 「分かった……しばらくしたら病室に行く。帰るのはそれまで待ってて」 『夜勤上がりだし、それは別に構わないけど……』 「じゃあ、またあとで」 西脇は通話を強引に切ると、そのまま食堂の主へと掛け直した。言葉少なくとも通じる相手の存在はありがたい。岸谷は紫茉の分も含めた昼食の準備に快く応じてもくれた。 そのまま壁にもたれ、額をその冷たい壁面に押し付けた。身震いがするほどの悪寒が全身を襲う。物理的なものでなく、精神的なものだと分かっていても、それをどうすることも出来なくて。 外警に属する隊員以外、他の隊員がほとんど立ち入らないスペースだからこそ、気が緩んでしまっただけなのかもしれない。 ただじっと、震えが収まるのを待っていると、額にじんわりと脂汗が滲んでいるのが分かる。それがひどく不快で、やりきれなさを感じて壁に拳を押し付けた。ぎりぎりと捻じ込んだ拳に僅かに痛みが走る。 何度も何度も深く呼吸した。ゆっくりと高ぶった血液の流れが落ち着き、呼吸が楽になっていく。 深い息を吐き出し、頭を上げた。 こうして俯いている時間などない。自分が立ち止まり逡巡した分だけ、橋爪もきっと立ち止まるから。 立ち止まるよりも、歩き続けなければ。 そう、自分に言い聞かせて。西脇は呼吸を整えると平然とした表情を被りなおして歩き出した。 「お待たせ……ああ、紫乃、寝たんだ?」 食堂で岸谷の用意した昼食を受け取り、西脇は病室に赴いた。 中で紫茉がベッドヘッドに座っており、橋爪はベッドの中に横たわっていた。 西脇が入ってきた気配にも気付かず、橋爪はただ目を閉じていた。ゆっくりと上下するシーツのふくらみは橋爪がゆっくりと呼吸をしている証拠だろう。 「……うん、ごめんね。紫乃ったら、ちょっと横になるって……ついさっき、やっと寝付いたところなの」 「……そうか。じゃあ、そのまま寝かせてやって」 西脇は手にした昼食をソファの前のテーブルに置くと、橋爪に歩み寄った。 「……眠れるんなら、それに越したことはない」 そして気付いた。橋爪の手は紫茉の手をきつく握っている。 「……ああ、これ」 紫茉が小さく苦笑した。そして、その白く細い指でそと橋爪の傷が浮かぶ手の甲をそっと撫でる。それでも目を覚まさないのは、安心しきって眠っているからなのだろうか。 「眠いのに寝付けないみたいで、手握ったらやっと……何だか、子供の頃に戻ったみたい……」 「……朝から点滴していたから、それに安定剤が入っていたのかもな」 西脇は橋爪の顔を見下ろした。浮かぶ寝顔は確かにやや苦しげに歪められてはいたけれど、それでもどこかあどけない表情を浮かべている。 「……紫茉さん、昼食取れる?」 「……そうね、いただこうかな」 紫茉はそっと橋爪の手を解放した。そのままそっとシーツの上にその手を乗せる。 「……紫茉さんのおかげかな。こんな風に眠っているの、久し振りだ」 「……そうか」 ため息混じりにいった言葉に、紫茉も僅かにため息を交えて返してきた。 PR この記事にコメントする
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