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「……や……っ」
「紫乃」 「……や……放して……」 紫茉の腕に囲われたまま、橋爪は体を震わせた。力なく拒絶はしても暴れるわけではない。ただ紫茉の腕の中で震えているだけだ。 「……お願い……だ、よ……」 「紫乃……?」 「……触っちゃいけない……お願い……」 そっと紫茉の腕が橋爪を解放すると、橋爪は自らの腕で自らを抱きしめた。 先日までの橋爪と同じように。自分で自分を守るかのようにきつく唇を噛み締めて、蒼白な顔をして。 「……ごめん、紫茉……ごめん……」 呟きつつ漏れるのは、橋爪なりの謝罪の言葉。 「心配かけてごめん……ごめんね、紫茉……」 「紫乃、何で謝るのよ。紫乃が謝ることなんて何もないんでしょ? ねえ、紫乃」 それでも橋爪は首を振った。自らを抱きしめる腕をそっと解放させ、紫茉はその手をゆっくりと取った。 「……紫乃、ちゃんと私を見て? 私の顔を見て? 私、怒ってないよ」 紫茉は躊躇いもなく床に跪くと、俯く橋爪の顔を下から覗き込んでゆっくりといった。 「しーの。ほら、私を見てよ」 橋爪は怯えたままの瞳で、それでも紫茉をじっと見つめた。ゆっくりと呼吸を繰り返し、そして真っ直ぐに。 ようやく、ほっとしたような穏やかな光が橋爪の瞳の中に戻ってくる。 「うん、それでいいわ……」 紫茉は満面の笑みを浮かべる。 「紫乃がやっと私を見てくれた」 そのまま両方の掌で橋爪の拳をそっと包んだ。橋爪はびくりと体を一瞬震わせたが、それでも相手が紫茉だと分かっているのか、ただゆっくりと紫茉を見返す。 「紫乃が生きていて、こうして笑っているだけでいいんだよ? 昨日、電話をくれるまで、私、本当に生きた心地がしなかった。本当によかった」 「紫茉……姉さん……」 「うん」 橋爪の呼びかけに紫茉がゆっくりと頷いて立ち上がった。 「こうして生きていてくれたことを感謝しないと、ね」 怯えてはいても、少なくとも橋爪は紫茉の手を拒絶していない。 今更紫茉に対する嫉妬もないだろうに、それでも感情がざわざわと波立つのが止められない。 「―――西脇」 いつの間にか堺が横に立っていた。 「二人きりにしてやろう。出るぞ」 西脇が顔を上げ返事をする前に、堺は強引に西脇の腕を掴み病室の外へと引きずり出した。 「堺さんっ」 西脇がきつく睨みつけるのも予想の範疇だったのだろう。ただ穏やかに笑み、口元をそっと綻ばせた。嘲笑ではない、穏やかな笑みだった。 堺はどうしてそんな風に笑みを浮かべることが出来るのだろう。 橋爪がそこにいて、そこでおびえていると言うのに、何も出来ない自分に対しての苛立ちや焦燥感を感じはしないのか。 「折角だから、二人で話をさせてやれ。お前がいたら、できる話も出来ないだろ」 「別に、Drが俺に隠していることなんてないだろ」 言外に堺の言葉を否定し、ここに残る意思を発したはずだった。 「それでもだ」 堺は西脇の言葉をぴしゃりと遮った。 「分かっていると思うが、紫茉君がいつ帰るかは知らんぞ?」 「……だから?」 「彼女が戻るときには連絡するから、とりあえず仕事に戻れ。ほら」 「しかし」 「必要なら、ゲートまで看護師に送らせる。戻るぞ」 そういわれてすごすごと戻るのもどこか癪で、それでも壁にもたれたまま「待とう」という姿勢を崩さないでいると、堺は西脇の腕をつかんでエレベーターの方に押しやった。 「いいから、二人きりにしてやれ」 「堺さん」 いつもならハイハイと仕方なく頷きもするが。 「西脇」 開いたエレベーターの中に西脇を押し込むと自らも乗り込み、有無を言わさず降下のボタンを押した。しゅっと軽い音を立ててドアが閉まり、そのままゆっくりとエレベーターは降下しだした。 「……西脇、その様子なら時間はあるんだろう? 医務室に寄って行けばいい」 反駁するのもバカらしくなり、西脇は大人しく堺の後ろについていった。 第一、堺がこうした物言いをするのはこうと決めたとき。そして堺がそう決めたのなら、どんな手を使ってでもその意志を押し通すことだろう。 それが同僚である橋爪のためなら尚更だ。 PR この記事にコメントする
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