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「……お疲れ様です」 西脇は開いていたB室のドアを軽く叩いて中へと踏み込んだ。 「ああ、西脇か。お疲れさん。仕事じゃないのか?」 中にいたのは堺と細野だった。 「いや、まだ、これからだ。三浦さんが話があるんだと」 「橋爪君のことだろ。座って待っとけ」 「……ああ」 堺に促され、西脇は大人しく椅子へと腰を下ろした。今更、子供じみた反抗などする気力もない。 ぐったりと椅子にもたれる西脇の前に細野が立った。 「西脇さん、アイスコーヒーでも良かったですよね?」 前のテーブルに置かれたのは、薄っすらと汗をかいているアイスコーヒーのグラスだった。 「……サンキュ」 ただ唇の端を持ち上げて、笑みを形作る。 「橋爪君、昨日は寮に戻ったんだってな」 「あんまり帰る帰ると駄々をこねたんで、三浦医師が渋々許可しただけさ」 吐き捨てるように呟いた西脇に、堺はやや目を細めて西脇を見てくる。 「部屋に戻って大丈夫だったんだろう?」 「……大丈夫だったんなら、ここに戻してはないだろ」 「……そうさなぁ」 注ぎ足されたコーヒーのグラスを口に運びながら堺が嘆息した。 「あのさ。そのうち紫茉さん……Drのお姉さんが見舞いに来ると思うんで」 「ああ、分かった。でも、怪我自体は軽症だ。わざわざ見舞いに来るような症状でもなかろう。それに、あの錯乱状態はあんまり見せたいもんでもないがね」 「……心配してるんだよ、紫茉さんも。ただ、言ってない。紫茉さんに……話さずに済むもんなら、それに越したことはないと思うから。精神状態がいい時なら、ただの軽傷の患者だからな」 西脇はきつく拳を握り締めた。 「それでいいのか?」 「ああ。だって、紫茉さんは女性だし、こればかりはDrの問題だから」 「……そうか。なら、こっちからは何も言わんでおく」 「そうしてくれると助かるよ」 西脇は軽く首を振った。 「とりあえず、そんだけだよ―――三浦さんにも紫茉さんに連絡取れって釘刺されてたからな」 ふうっと深いため息が零れるのを止められない。 「西脇」 堺の呼びかけに視線だけ向けた。 「おまえさん、ちゃんと寝てるんだろうな?」 「昨日は3、4時間は寝た。最低限かもしれんが、支障を来たすほどではないだろ。実際良くあることだ」 「目の下、隈できてるぞ?」 「あとで栄養ドリンクでも飲んでおく」 「あー、もう。ああいえばこういう」 「そういう奴でしょ。今更」 駄々っ子のような応酬を堺と繰り返していると、三浦が表情をきつく強張らせて、つかつかと足音も高くB室に入ってきた。 「西脇さん」 「……何だよ」 「Drに何をしたんだよ! それとも、何か言ったのか?」 「……Drが、あんたにそれを?」 「Drが君のことをどうこう言うはずはないだろ? だから、君に聞いてるんじゃないかっ!」 つかみ掛からんばかりに顔を近づけられて、西脇は軽くその体を押しやった。 さっき病室前で挨拶し分かれてからのタイムラグ。何も言わない橋爪の様子に、三浦は何かを感じ取っているに違いなくて。 「―――プライベートだ。Drが何も言わないんだら、そういうことだろ」 「今のDrに関して、プライベートは通用しないんだけどねっ!」 なおも言い募ろうとする三浦を、堺がゆっくりと手を上げて制した。 「まあ、待ちなさい。三浦君も頭ごなしに言っても何もわからんだろうに」 「堺さん……」 ふうっと深いため息をつき、そのまま椅子にドスンと座った。 「従順すぎる」 「は?」 「Dr! 何言っても、ただそれに従ってる」 「いいじゃないか。それに何の問題がある」 西脇の言葉に、じろりと三浦が睨みつけてきた。 「あんなふうに表情を無くして、人の言葉にただ頷くだけの人形でも?」 「今だけだ。落ち着けば、またうるさいくらいに自己主張してくるだろうさ」 「君ねっ! あんな顔をさせるのが、君の愛し方なのか!?」 「あんたや堺さんの言うことを聞いて大人しくしておけといっただけだ。それに何か問題があるとでも?」 「……西脇。本当にそれだけなのか?」 訝しげに見遣ってくる堺にも軽く首を振った。 「それ以外に何かあるとでも?」 「それくらいで、Drがあんなふうになりはしないだろ!?」 「ちゃんと言い聞かせたつもりだがな」 「その言い聞かせ方に問題があったんじゃないのかい?」 頭ごなしに決め付けられて、西脇にもカチンと来るものがある。何も知らない三浦に、自分と橋爪とのことをあれこれ言われたくはない。 「あったかもな。顔歪めていたから―――だが、反対に聞くが。Drの言うように、全てをあいつの意のままにさせるつもりか? 我侭を全部聞いて」 「それはそうだけど」 「それだけだよ。この療養に関しては、俺はあいつの意見を聞くつもりはない。支えてやりたいとは思うが、べたべたに甘やかすつもりもない。抱きしめて落ち着かせて甘やかしたいんなら、三浦さんがしてあげれば? 俺に気を使う必要はないよ。医療行為、なんだろ?」 「西脇さん、君ねっ」 本気で三浦が掴みかかってきた。派手な音を立てて椅子が転がる。 ここまで怒るのは、ひょっとしたら、未だに橋爪に心を残しているせいなのだろうか。そう思うと、余計に腹立たしい。 ベストをぐいっと引っ張られ、体が僅かに傾いだ。 西脇はその手を叩き払うと、そのまま目の前の三浦の股間を無言のままに掴み上げた。橋爪のもので慣れた感触には違いないのだが、相手が三浦のものだというだけで怖気が走る。 「西脇さん!」 「西脇!?」 慌てて腰を引いた三浦と驚いたように見てくる堺や細野の視線に西脇は小さな溜息をついた。 「―――ふうん? それなりに立派なものを持ってるじゃないか、三浦センセ?」 西脇は手を振って、その感触を払拭した。 「嫌がらせではここまでが限界だな」 「君、まさか」 「ん? まさかって何?」 「Drにもこんなことしたんじゃないだろうね?」 「こんなこと? ああ、したね。服を剥ぎ取って? 股間もケツも舐めたし、ケツに指を突っ込みもしたかな? でも、いつもやってることだろ」 三浦は怒りを隠そうともせずに目を吊り上げて西脇を見下ろし、堺と細野は唖然としたまま西脇をただ見ていた。 くくくっと喉の奥から笑いがこみ上げてくる。 「当然だよな。恋人なんだからな、俺たちは。女とでもやるだろ?」 「西脇さん、君ねっ」 「―――Drが望んだんだ」 三人が三人とも目を見張った。 何故か、酷く愉快にも思える自分がそこにはいた。 PR この記事にコメントする
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