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テンプレ・レベルから徹底的に検索除けをかけているので、ここへは一般のお客様は入れません……多分(笑)
副隊長を乗せた車がT-CATを出たという連絡を受け、「上がる」と監視室に連絡を入れるとロビーからゆっくりとゲートに向かう。
日が陰りだしているのに、未だむっとする熱い空気が西脇を包む。 「お疲れさまでーす」 「ああ、お疲れ」 声をかけられる度に、無表情に応じながら東門へと到着する。 「副隊長は?」 「そろそろだと思いますよ」 池上がゆっくりと笑みを浮かべる。 「まだ上がりではなかったのですか?」 「上がりだ。荷物を副隊長に預けてきたから、それを受け取ったらな」 恐らく池上はそれだけで状況を察してくれることだろう。 そこに公用車が到着した。 運転していた室井が開けたドアから篠井とマーティが降りてくる。 「お疲れさまでした」 池上を始め、そこにいた外警の隊員たちが一斉に頭を下げる。 「ただいま戻りました」 笑みを浮かべる篠井に何故かほっとして。 「お疲れ様でした、篠井さん」 制服姿の西脇を認め、篠井が訝しげに眉をひそめる。 「西脇さんもお疲れ様。早速今日から勤務に入っているのですか?」 「それは、まあ」 苦笑に紛らせて、気まずさをやり込めて。 あちこちからの休めという声を無視しての勤務だから。 それでも、勤務についているからまだ真っ直ぐに立っていられる。きっと橋爪と24時間一緒にいたら、自分のほうこそ物思いに捕らわれてしまってまともな判断すら出来なくなることだろう。その程度には脆い自分の精神状態を自覚しているから。 実際、自分の性機能が正常に反応しなくなったのもその一端なのだろうと思うし。 逃げ、なのかも知れない。 それでも、ある意味現実の中に身をおかなければ、橋爪のこともまた冷静に見ることなど出来なかったから。 「マーティもお疲れ様。悪かったな、帰省できなかったんだろ、結局」 「いいんですよ。今度、有休もらったらゆっくり帰省します」 実際そのつもりだったし、と、金髪碧眼の青年も笑う。 自分が一足先に帰国しなければ、マーティはたった1日とはいえ地元でゆっくりすることは出来ただろうし、篠井もヤキモキして自分からの連絡を待つことも無かっただろう。 「副隊長、荷物、寮まで運びますよ」 「自分で運びますからいいですよ。ありがとう」 室井が言うのに、篠井は穏やかに笑む。ゲートから寮の入り口まではそれほど距離はない。 「じゃあ、下ろしますね」 そういって、室井はトランクから荷物を下ろした。 「西脇さん、隊長は?」 「ああ、通常勤務のはずだが」 「では、荷物をおいたら報告に伺いますと伝えてください」 「ああ、了解した」 インカムで石川に連絡を取っている間に、篠井は室井から荷物を受け取っていた。 「篠井さん、隊長は中央でデスクワークしているそうですから、荷物を置いてからでいいそうです」 石川との事務的な会話の後、西脇は篠井に向かった。 「室井、ありがとう。あとは通常勤務に戻ってください」 「はい。お疲れ様でした」 公用車を動かし、室井は駐車場へと戻っていった。 「西脇さんのも寮に運んでおきますよ。ここまできたらついでですから」 「いや、俺も上がりだから一緒に行く。マーティ、ありがとう」 そして、握っていたマーティから自分のトランクを受け取った。 「池上、梅沢。後を頼む。何かあったら、遠慮なく呼んでいいからな」 「了解です。お疲れさまでした」 「お疲れさまでした」 二人を寮へと促した。ゆっくりと歩みを進める。 「なんだか、ようやく日本に戻ってきたという気になりますね」 「篠井さんは明日まで休みだろう? 今夜はゆっくりとするといい」 「そうですね……」 そう微笑むと、寮長室に入った。 「寮長はまだ勤務中ですか」 「郵便物でしょう? 俺が出しますよ」 西脇がキーを開け、篠井とマーティへの郵便物を取り出す。 「さすがに3週間ばかり明けると、郵便物が貯まりますね」 かなりの量になるそれに、篠井が小さく溜息をついた。 「知人以外には知らせてはいないはずなのに、どこから住所とか調べるんだとか思いますよね」 郵便物の大半がDMばかりだからなおのこと。そして、移動しながらそれを見ていた篠井の顔が僅かにほころんだ。 きっとアメリカにいる双子からのハガキでも混じっていたのだろう。 「西脇さん、あとで夕食をご一緒しませんか?」 篠井の部屋の前で、くるりと篠井が西脇の方を振り向いた。 「いや、食事は別の……いや、岸谷の部屋でコーヒーなら」 隊のこと、橋爪のこと……きっといろいろと聞きたいことが貯まっているのだろうから。それをさっきから口にしなかったのは、周りに他の隊員がいたからにすぎないのだ、きっと。 「ええ、それでも構いませんよ。では、1時間後くらいに……で、大丈夫ですか?」 「ああ。では、隊長との話が終わったら、連絡をください。すぐに行きますから」 「分かりました。マーティ、5分後くらいで大丈夫ですか?」 「はい。荷物だけおいてきます」 「あとちょっとで終わりなのでお願いしますね」 「はい。西脇さんも、お疲れさまでした」 「ああ、お疲れ」 マーティを送り出し、西脇は篠井をまっすぐに見つめた。 「……篠井さん、Drは大丈夫だから」 「そうですか、よかった」 幾分かほっとしたように篠井が笑みを浮かべる。 多分、それこそ一番聞きたかったことだろう。 「だが、まだ退院はできない。それだけだ」 「それでも、よかったですね」 「……ああ」 ゆっくりと篠井が西脇の腕に触れる。そして、軽くぽんと叩いた。 西脇もひきつる頬に小さな笑みを浮かべた。 「じゃあ、またあとで。お疲れさまでした」 「お疲れさま」 そして部屋へと戻る。また日常の繰り返しが始まる。 ただ、そこにに橋爪の元気な笑顔がないだけだ。何も変わることはない。 汗ばんだ体をシャワーを浴びてすっきりさせ、着替えを済ませた。ソファに腰掛けると、全身を重い倦怠感が包み込む。こんな風に体の自由が利かなかったことなんてない。 ほんの少しだと思ってソファにごろりと横になり、腕で顔を覆った。熱いものがこみ上げては眦から溢れ零れていく。 結局は自分の力だけでは何をどうすることも出来ない。 単に食事を運んで無理矢理に食事させ、着替えさせて、眠りに入るのを見届ける。 それなら、介護職員やヘルパーの方がもっと上手くやることだろう。 がむしゃらに一緒に居るというだけでは限界があるというのは、多分最初から分かっていたことだった。認めたくなかっただけだ。 「……紫乃、ごめん。ごめん、紫乃……」 ただ、そう呟くだけで。 その時、インカムが鋭い呼び出し音を奏でた。西脇はのろのろとインカムに手を伸ばした。 「……はい、西脇」 『西脇さん、細野です。お疲れのところ申し訳ありません。勤務中ではありませんか?』 細野の声にびくりと反応した。 「いや、もう、上がっている。何かあったのか?」 『すみません。Drの調子がよくなくて……もし、お手すきになられたらと』 「三浦さんは?」 『他の患者にかかりきりです。精神安定剤を多用するわけにもいかなくて』 「……わかった。すぐ行く」 『すみません。お願いします』 インカムと携帯をポケットに押し込み、西脇は橋爪の病室へと急いだ。 PR
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