[PR] 脂肪吸引 永遠の詩 忍者ブログ
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020
 寮を出て、食堂への道を辿る。
 いつものことなのに、足に何キロもの重りをぶら下げているかのように足が進まない。
「おはようございます」
「ああ、おはよう」
 元気な隊員達の挨拶に応える自分の声がひどくかさついて聞こえる。
「西脇、おはよう」
「西脇さん、おはようございます」
 そして、食堂の入り口で列に並んでいた石川と岩瀬に遭遇する。
 つい逃げようとした西脇は、先手を打って挨拶されることで、退路さえ奪われてしまった。
 いや、被害妄想なのかもしれないが。
「……おはようございます」
 辛うじて小さく会釈をすると、石川の手が西脇の腕を掴んだ。
「西脇、昨日は休んでないんだろう?」
「……いや、2、3時間は寝た……と思う」
「と思うって……顔色が悪い。今日まで休んでもいいんだぞ? それくらいなら何とか俺達だって」
「……大丈夫だ。何かない限り、デスクワークする」
「それならいいんだが……あ、和食で頼むよ」
 石川は中島にそういうと、西脇に向かった。
「辛いのはおまえだけじゃない」
「……分かってる」
 ため息をついて、西脇は辛うじてこわばる頬に笑みを浮かべた。
 分かっている。一番辛いのは、当事者である橋爪だから。
 自分はそんな橋爪に対して何も出来ない。そんな無力感にさいなまされているだけだから。
 それでも、ただでさえ橋爪の心配をしてくれている石川達に、これ以上の心配はさせたくない。
 どうせなら、橋爪をこのままどこかへ閉じこめて、自分一人のものにしておきたいくらいの気持ちだから。
 自分と二人きりの世界なら、他の男に怯え惑うこともないだろう。
 ただ、そうしないのは、恋人がそれを望んでいないから。
 閉じこめることで、恋人の心もまた閉ざされるのが怖かったかということもある。
「昨日よりは大分状態もいいようなんだ」
 話をどうにか反らそうとして。追い払うには、安心させるのが一番かと思った。
「いろいろと話もしたし、ほんの少しずつだけど、何か口にしようとしてくれる」
「そうか!」
 石川がほっとしたように笑みを浮かべる。それも石川らしい満面の笑み。
「よかった、本当に。うん、よかった」
「だから、そんなに心配するな。だろう?」
「ああ、そうだな。これで少しずつ」
 心底安心したように笑顔を浮かべる石川に、自嘲気味に笑みを浮かべ。
 多分、傍から結果論だけ見ていれば、きっともう大丈夫のようにも思えるのだろう。
 ただ、橋爪が暗い闇を心に沈めたのだということに気付かないでいれば、だ。
 笑顔の裏でどれだけくらい闇を抱えているか……それは橋爪本人にも分からないのだろう。でも西脇はそれに気付いてしまった。気付いてしまったから、橋爪に接するのが怖くもある。
 カウンターで西脇を待っていた中島を向いた。
「だといいと思う。中島、さっき、浅野に頼んでおいたんだが」
「はい、出来てますよ。Drの分がこっちです。7分粥にしてありますから。後で足りないようならまた用意しますから、連絡いただいたら。あと、こっちが西脇さんの分。サンドイッチとサラダですけど、ほかに何か?」
「じゃあ、コーヒー入れてくれるか? 二人分」
「はい、すぐ用意します」
 中島が後ろに指示を出し。石川が訝しげに西脇を見やってきた。
「西脇? ここで食わないのか?」
「ああ、病室に戻って、Drと一緒に食う」
「……そうか」
 石川が少しだけ落胆したように見えるのは気のせいか。
「その方が、Drもちゃんと食うからな」
「そうだよな……うん、あとで顔を出すよ。Drにそういっておいてくれ」
「ああ、わかった。石川こそ、ちゃんと飯食えよ?」
 小さく手を挙げ、西脇は大きなトレイを受け取ると病棟に向かった。
「西脇さん、おはようございます」
「ああ、おはよう」
 隊員達の元気な挨拶に、それなりに応じながら。
 元気な隊員達の姿に反して、少しずつ自分の心が蝕まれていくような気がして。
 きっと今だけだ、橋爪さえ自分の手に戻れば、きっと今まで自分に戻れる。そういい聞かせて。
 病室の扉をノックすると、ドアがゆっくりと引きあけられた。
「西脇さん、お疲れさま」
 開けたのは案の定の三浦だった。既に白衣は脱いで、プライベートモードになって入るが。
「サンキュ」
 西脇は病室に入ると、トレイをベッド横のテーブルの上に置いた。
 横目で伺い見た橋爪の瞳が潤んでいるように見えるのは気のせいではないのだろう。ひょっとしたら、三浦の前で泣いたのかもしれない。
 案の定、橋爪は慌てて顔を擦った。
「Dr、おはよう」
「……おはようございます」
 儚げに笑みを浮かべる橋爪に、西脇も無理矢理に笑みを浮かべ。
 今はまだその涙の理由も詮索はしないでおこうと決めて。自分の前でなく、三浦の前で泣いたというのは……きっと、自分へ聞かせたくない話故なのだろうから。今の自分はそれを聞くことすら臆病になってしまっている。
「朝食を持ってきたんだ。一緒に食べようよ」
「私はまだ……」
「食べようよ、一緒に」
「……はい」
 少し無理矢理にも頷かせ。
「じゃあ、僕はもう上がるから」
 椅子の背にかけた白衣を取り上げた三浦を視線でそっと制した。
「コーヒーくらい飲んでいけば? ほら、三浦医師の分」
 多分、橋爪にとっても自分にとっても、第三者である三浦の存在が緩衝材になるから。
「サンドイッチもあるけど? 帰る前に食べていかないか?」
「……あ、うん……じゃあ、もらおうかな」
 多分、西脇の願いも分かったのだろう。曖昧に笑いながら、三浦は再び椅子に腰を下ろした。




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