[PR] 脂肪吸引 永遠の詩 忍者ブログ
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017

 西脇はゆっくりと病室の光量を上げた。
 眩しいほどの光には満たないが、薄闇に慣れた目には十分すぎるほどの明るさだった。
 その光の中。橋爪の青ざめた顔の中で、泣きはらして赤くなった頬だけが目立っている。
「三浦さん、すみません。ご迷惑おかけしました……ですよね」
 橋爪はゆっくりと三浦を見上げた。
 三浦は軽く首を振った。
「迷惑はしてないよ、Dr。せっかく西脇さんが帰ってきたんだから、しばらくゆっくり休んだらいい。な?」
「そんなわけには行きません。24日から健診も始まりますし、その準備だってまだ」
「Dr」
 西脇が橋爪を制そうと肩に手をかけたが、橋爪はそれを振り払った。
「健診嫌いの西脇さんには嬉しいかもしれませんけどね。私は」
「Dr、それは僕がするから」
「三浦さんが? 外科なのに?」
「検診に外科も内科も関係ないよ。Dr、分かってるだろ?」
 橋爪はくっと唇を噛んだ。
「Dr、はっきりいうけどね。今の君に診察される隊員が可哀想だと思うよ」
「三浦さん!」
「Dr、自分の顔、ちゃんと鏡で見た?」
「え?」
「酷い顔色しているよ? ちゃんと休んでさ、せめて顔色が戻ってからにしたほうがいい」
「もう十分に休みました!」
 橋爪はきつく三浦を見上げた。
 今すぐにでもベッドから降りようとする橋爪を西脇が慌てて押し留めた。それに橋爪は何度も首を振った。
「もう、大丈夫ですから。ちゃんと」
「Dr!」
「いい加減にしろ」
 三浦が間に割り込もうとした時、西脇が声を強めた。びくりと体を震わせ、橋爪はきつく目を閉じた。震える手がぎゅっと毛布の端を握り締める。
「……もう、大丈夫なんです。さっきも言ったでしょう?」
「どこが大丈夫だって?」
 西脇が手を掴みあげると、橋爪の喉から声にならない悲鳴が上がった。体をぎゅっと強張らせ、怯えたように首を振った。それこそ何度も。
「大丈夫なんだ?」
 髪を掴み、無理矢理に顔を上げさせた。ぎょっとしたように、三浦が西脇を見た。
「紫乃、答えて」
「……大丈……です……う…っ!」
 西脇の手が橋爪の細い首の上を辿る。何をするわけでもない、ただ首に置いただけの掌にさえ、橋爪は酷く怯えてしまう。
 髪を解放して、きつく肩を掴んだ。
 恋人の手だと分かっていても、怯える橋爪に苛立ちを感じて。
 三浦が見ていることなど、西脇にとっては些細なことだった。
「大丈夫、なんだ」
 苦しげに吐き出した言葉に、橋爪がゆっくりと首を振った。
「……西脇さん、もうそれくらいにしてあげたら?」
 ため息と共に呟かれた三浦の台詞と共に、西脇は橋爪を解放した。
 橋爪は怯えたように、再び自分の体をきつく抱きしめた。大きく見開かれた瞳から、幾筋も涙が零れていく。
「Dr……」
 三浦がベッドサイドにゆっくりと腰をかがめた。
「Dr、テストしよう。僕の頬に触れてみて。手でもいい」
 橋爪は首を振った。手を伸ばすことすらしなかった。
「僕を触診するんだよ。熱があるか、脈拍は正常か……ほら」
「……いやーっ」
 三浦が取った手を橋爪は悲鳴を上げて振り払った。ガタガタと大きく体を震わせて、ベッドの端まで這いずるように逃げた。
 三浦は深いため息をつくと、ゆっくりと立ち上がった。そして、西脇に小さく頭を下げた。三浦なりの小さな謝罪だったのかもしれない。
「試すような真似をしてごめん」
「……三浦さん……」
「Dr、隊員に触れる? 自分から強制連行できるかな? 後ろからいきなり声をかけられることもあると思うよ? それでも大丈夫って言い張れる?」
 三浦に畳み込まれるように言われて、橋爪は俯いた。
 ただ、橋爪のしゃくりあげる音だけが、静かな病室に響く。
「無理はしないでいいんだよ。まだ、西脇さんが帰ってきたばかりで、Drも興奮しているだけだ。2、3日休んで落ち着いたら、復職できるよ、きっと」
「2、3日……?」
「ああ。Drが、本気で戻りたいと思えばね。堺さんにも、僕からちゃんとそういってあげるし」
「2、3日で大丈夫なのか?」
 三浦に問いかけたのは西脇の方だった。
「希望的観測だけどね。ただ、それを判断するのは僕じゃない、堺医師だよ。僕は口添えするだけ」
「……役に立たない男だな」
「そういわないでよ。一応、自分の分というのは心得てるつもりなんだ」
 小さく肩をすくめながら呟く三浦に、西脇は苦笑を返した。
「Dr? ちょっとした処方以外、独断では判断しないから。ちゃんと患者のことは、Drに聞く。それでいいだろ?」
 橋爪はこくりと頷いた。
「それに、気分もいいようだったら、手伝ってもらうかもしれないし」
「三浦さん?」
「その方が、Drの気持ちも軽くなるだろ?」
「それはまあ」
 西脇はぼそぼそと呟いた。
「西脇さんもね、あまり考え込まない方がいいと思うよ」
「……あんたに言われるまでもない」
「だろうね」
 にこりと太陽のような笑みを浮かべて、三浦は橋爪を、そして西脇を見やった。
「それにさ。Drはちょっと根をつめて働きすぎだよ。どれだけ有休が残ってるか、分かってるよね」
「……けど……」
「折角だから、有休の消化もいいんじゃないの? 今、ほら、そんなに忙しいわけじゃないし。チャンスだと思って……ね?」
 橋爪はこくりと頷いた。
「うん。じゃ、まずは堺さんに退院の許可をもらってからだね。それまで、Drは体を休めることに専念すること。あとで、また来るから……西脇さんもね。ちゃんと休んでないと、あとで強制休養させるからね」
「はいはい」
 そうして、三浦は西脇に目配せをするようにして小さく頷いたあと、ゆっくりと病室の明かりを半分落として出て行った。
 薄暗くなった病室の中で、橋爪のすすり泣きだけが小さく響いている。
「……紫乃……」
「……悔しい……」
「ん?」
「……何も反論できない自分が嫌……もう大丈夫なのに。大丈夫なのに、何故……っ! ねえ、西脇さん、何故? 私、大丈夫でしょう? なのに、何故? 三浦さんも、あなたも拒絶して!」
 橋爪の指が西脇に縋ってくる。
 ぼろぼろと零れる涙は、彼がいうような「大丈夫」ではないと証明しているようなものなのに。
 それすらも橋爪は自分で分からなくなっているのかもしれない。
「ちゃんと分かってる! 三浦さんだってこと、あなただってこと、ちゃんと分かってる! なのに、どうして! ねえ!」
 西脇のシャツをきつく掴んで、橋爪は唇を震わせた。
「……こんなはずじゃないって?」
「だって、そうでしょう!」
 西脇の体がぐらりと傾ぎ、ベッドの上に引き倒された。平素の橋爪の力からは想像も出来ないことだった。
「紫乃……っ」
 がさがさの唇が西脇の唇に押し付けられた。
 ガタガタと震えながら、ただがむしゃらに唇を押し付けるだけだった。
「止め……っ」
 愛情の欠片さえ感じられない、渇いた冷たい口付けの繰り返しだった。
 橋爪から零れる涙が、西脇を凍えさせていく。
 心さえどこか冷え切っていく。
 体の芯から冷たさだけがこみ上げてくる。
「いい加減にしろっ」
 橋爪を押しのけ起き上がると、橋爪はベッドの上で蹲り泣きじゃくった。



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