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テンプレ・レベルから徹底的に検索除けをかけているので、ここへは一般のお客様は入れません……多分(笑)
「だから……もうっ」
紫茉はため息をつくと、西脇の後を慌てて追いかけてきた。 「おう、早かったな」 廊下でのやり取りが僅かなりと聞こえていたものか。先ほどインカムで連絡していたとはいえ、いきなり入室した西脇を、堺は驚きもせずに迎え入れた。 「ああ……紫茉さん、入れば?」 入り口のドアから半身をずらし、西脇は扉の脇に凭れた。 「西脇も、そんなとこに突っ立ってないで座れ」 「……俺は紫茉さんの案内人だから」 軽く顔を背けつつ言うと、堺が盛大に溜息をつく。 「紫茉君、座ってくれ。あいつは放っておいて構わないから」 紫茉は小さく頷くと、堺の向かいに腰を下ろす。 「橋爪君の所へは?」 「……いえ、まだ。すみません、堺先生。弟がお世話をかけています」 そのまま紫茉はゆっくりと頭を下げた。 「世話なんかじゃないよ、紫茉君。私にとっても大事な同僚だからな」 「ありがとうございます。堺先生、暴行を受けて寝込んでいるのだと聞きました。それほどに酷い怪我を……?」 「それなりにはなぁ」 小さく溜息をついて、堺は自らの胸元に手を当てた。 きっと、傷ついたのは体だけじゃない、心もだと言外にも言っているようで。それは西脇にも分かっていることだけど。 「……頭じゃ分かっているんだろうが、体が追いついていかない。怪我の方はやがて癒えるだろうが、そればかりはな」 「話を伺った時……以前の、テロへの恐怖がまた蘇ったのではないか、そう思ったんです。あの、背中を傷つけた」 「あの時は紫茉君が主治医になったんだったな。 堺の紫茉を見る目はどこまでも優しい。それは、橋爪を見る時と同じものだろう。 「さて。橋爪君の所に案内しようかな。大好きなお姉さんが見舞いに来てくれたんだ。きっと喜ぶだろう」 「―――はい。ありがとうございます」 「西脇も行くよな?」 「ああ……」 保護者として必要なのなら、行く以外の選択肢はない。 ポツリポツリと語る堺と紫茉の後ろから西脇は付いていく。 二人が話しているのは、橋爪の病状とその処置、そして橋爪と紫茉の昨夜の電話の内容で。 「―――それで、つい、紫乃を叱ったしまったんですよ」 「それくらいなら大丈夫だろう? 本気で喧嘩するバカもいることだしな」 一瞬だけ西脇の方を見遣った堺の視線は何故か憐憫を帯びているようにも感じてしまった。 「なんにせよ、普段通りが一番負担にはならんと思うぞ。下手に怪我人扱いはせんがいい」 ゆっくりと笑んで、堺は目の前の扉を叩いた。 「堺だ、入るぞ」 返事が返ってこないのはいつものこと。それにももう慣れた。きっと堺も同じことだろう。 声をかけるだけかけて、堺はゆっくりとドアを開いた。 橋爪はベッドの端に座り、ただぼんやりと窓の外を見やっていた。 「橋爪君」 橋爪がゆっくりと首を巡らし、堺を認めた。次いで西脇の姿も。 「ああ、堺さん……」 「起きていて平気なのかね?」 「―――寝ているのにも、いい加減飽きました」 ゆっくりと笑う、その笑みの中に橋爪の感情は見えない。 「それならいいがね。見舞いが来てるよ」 視線が頼りなく揺れる。橋爪の目は西脇しか捉えていない。 「見舞いも何も……今更でしょう?」 堺は軽く笑った。 「西脇じゃない、紫茉君だよ」 堺と西脇の体の影でおそらくは姿を認めることは出来なかったのだろう。しかし、紫茉も身を硬くして入り口で固まっていた。 「紫茉……?」 紫茉は目を見開いて橋爪を凝視している。その目には、うっすらと涙の膜さえ浮かんでいる。 「……ああ、紫茉。どうしたの? 昨夜、電話で話したばかり……ええと、紫茉?」 橋爪が微笑む。しかし、愛しい肉親へと向ける笑みじゃない。当たり障りのない、誰にでも向け得る取ってつけたような笑みだった。 「紫乃……」 しかし、橋爪は僅かに小首を傾げただけだった。何も知らない人間が見たら、平素の橋爪とは何も換わらない、ただの愛らしい仕草でしかないのだが。 「紫茉? ビックリさせてしまった?」 屈託なく、橋爪が笑う。 紫茉は震える手を必死で橋爪へと伸ばした。橋爪が訝しげに己の姉を見上げる。 「紫茉?」 「……紫乃……紫乃……っ」 伸ばした手で弟を引き掴み、そのまま両の腕できつく橋爪の体を抱き寄せた。 PR この記事にコメントする
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