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046

 ぼんやりと時を過ごしていると、テレビの画面が時を示す。
「……朝礼が始まったか」
 西脇は首に回していただけのネクタイをきちんと結んだ。
「病室に戻るな?」
「……はい」
「雑誌とか持っていくものは、本当にないのか?」
「特には……」
 ゆっくりと橋爪は頷いた。今更戻りたくないとジタバタする気はないのだろう。
「じゃあ、そろそろ行こうか」
 もっとも、橋爪がどれほど嫌がっても無理矢理に連れ戻す気ではあったのだが。
 橋爪は目を伏せたまま、ゆらりと立ち上がった。
「とりあえず、これだけでいいか」
 西脇が手に取ったのは、昨夜自分で簡単にまとめた橋爪の着替えなどであった。橋爪には一切手を出させていない。
「……自分で持っていけます」
「これくらいなら大丈夫だ。だから、自分で持っていくものは他にないのかと聞いたんだ」
 小さなため息を重ね、西脇は橋爪を見遣った。
「じゃあ、行くぞ」
 朝礼中で人も疎らとはいえ、完全に無人というわけではない。それでも、他の時間帯に移動するよりはまだマシだろうから。
 無言のまま橋爪を連行するかのように、寮を出ると病棟へと戻った。
 来る時のように手を引くこともなく、それでも離れることも出来ずに。
 橋爪も強ばった顔のまま、黙って西脇の後をついて歩いている。
 ほとんど隊員たちに出くわすこともなく、ただ黙々と病棟への道を辿っていった。
 もちろん、外警の隊員には会わなかったわけではない。しかし、西脇は鋭い視線でその隊員たちを牽制した。
 西脇自身、橋爪の扱いに迷いが生じていたのかもしれない。どうしたらいいのか分からなくて。
 一緒にいることが辛くもあり。
 だけど、その手を放すことも出来なくて……
 その葛藤にますます心のどこかが壊れていく気がしていた。



「西脇さん?」
 病室へ戻るエレベーターをホールで待っていると、ちょうど三浦がやってきた。
「お疲れさま」
「……ああ、お疲れ」
 三浦の浮かべた笑みに些かげんなりとしながら、辛うじてそう答えた。
「Dr、おはよう。夕べはゆっくり休めた?」
「……ええ、まあ……」
「それならよかった」
 三浦は屈託のない笑みを浮かべて橋爪を見やる。ただ、西脇へはやや厳しい視線を送ってきたところを見ると、何やら含むところはあるのかもしれない。
「じゃ、後で病室に行くからね」
「……はい」
「西脇さん、頼むよ」
「……わかった」
 軽く頭を下げ、三浦は病棟への通路へと先に入っていった。
「……西脇さん」
 橋爪がようやく西脇へと口を開いた。
「……ここで大丈夫です。ここからなら、もう、隊員にも会わないでしょうし」
「……病室までは連れていく。そういう約束だ」
「……そう、ですか……」
 降りてきたエレベーターに押し込み、ボタンを押した。狭い密室の中での沈黙が息苦しくて。
 既に慣れてしまった病室に着いた途端、ほっとしたのは事実だ。
「……ベッドに入って」
 促されるまま橋爪がベッドに上がった。
「……着替える? 部屋着のままでいい?」
「……このままでいいです」
「……そうか」
 橋爪の言葉少なな応対に、見えないよう小さなため息をついて。
「着替えはこっちのバッグに入っているからな。汗をかいたら着替えるといい」
「……はい」
 西脇の言葉に橋爪は何一つ逆らわなかった。
 昨夜のことは何もなかったことにされているのかもしれない。
 それきり橋爪は俯いてしまった。
「……また昼来るから」
「……もういいんです。西脇さんだって忙しいんだし……」
 ぼそぼそと橋爪が呟くのに、何故か苛つく。
「どうせ俺も昼飯は食うんだ。だったら、一緒でも構わないだろう?」
 それに、放っておいたら、飯すら食わないだろう? その言葉は必死で押し殺して。
「別にベッドでずっと寝ておく必要はないと思うけどな。だが、部屋で大人しくしておいてくれ」
「……はい」
 橋爪の頷きに、西脇は小さく吐息を漏らした。
「じゃあ、あとで」
 そっと橋爪の髪に触れるだけで解放した。軽いキスでさえも今だけはしたくない、とそう思って。
「行ってくる」
「……行ってらっしゃい。気をつけて」
「ああ……」
 西脇は微かに笑みを浮かべ、そのまま病室を出た。
 ドアの外、廊下の壁に三浦がもたれていた。手早く巡回だけ済ませてきたのかもしれない。
「……三浦さん」
「浮かない顔しているよ。医務室で休んでいかないか?」
 白衣のポケットに手を突っ込みながら、三浦が言う。その三浦の言葉に僅かに目を見張った。
「Drのものほど、美味くはないだろうがね。珈琲くらいなら、B室にもあるから」
 三浦は口調こそ優しげではあるものの、目は全く笑っていなかった。
「……珈琲はいらないけど、寄ればいいんだろ?」
「話が早くて助かるよ」
「……どうせ、昨日の話しはしなきゃいけないんだ。B室でいいんだな?」
「ああ、頼むね。僕もすぐに行くから」
 紫茉のことか、橋爪のことか。
 どちらにせよ、愉快な話ではない。
「……先に行ってる」
 勤務に就くにはまだ早い時間だったから。
 いつもなら、こうした時にはいつだって、橋爪の笑顔が添えられた美味い珈琲で暖かくも優しい時間が彩られていた。
 ぞくりと背中に寒気が走った。
 立っているだけでも汗ばむほどの真夏の朝に、寒気など感じるはずもないのに。



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