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036
「何も言ってないって……男に暴行されて入院していると言ったのでしょう?」
 橋爪が訝しげに西脇を見上げた。
「いや、文字通りだよ? 原因とか、何も話してはいない。最初にそう判断したのは石川と堺さんだ。でも、俺もそれで良かったと思う」
「どういうこと……?」
「もちろん、紫乃がテロに襲われて怪我をしたのは事実だし、それで臥せっていることは隠してはおけない。だから、それは家族である紫茉さんにも実家にも連絡してある」
 橋爪が握った手に自分も力を込めて。
「紫乃は、怪我をした。その怪我の療養の為に、今は敷地内の病棟で入院している。そう報告はしてあるけど、どこか間違ってる? それは委員会にも同じだし、紫乃も医者としてそうするだろう?」
 言っていないことはあるけれど、間違ってはいないから。それだけで紫茉が納得するわけはないのだが、それでも嘘だけはつきたくないから。
 ゆっくりと橋爪が首を振る。
 分かってはいても、西脇の言葉全てまでは肯定しかねるということか。
 小さな溜息をついて。
「今は、まだ、全てを言う必要はないと思うから。紫茉さんは女性だし、紫乃以上にショックを受けかねないかもしれない。ご両親もだろう……そして、それを口にするのは紫乃からじゃないと駄目だと思うから」
「西脇さん……」
「家族に全てを話すのも、そして話さないのも紫乃が決めていいんだ。周りがどうこう言うことじゃないからね……俺もそう思った。紫乃の心の整理がつかない限り、まだ話すべきじゃないと思うしね。怪我をしたことならともかく、暴行のことは話す必要もないことだと思う」
「紫茉は……」
「紫茉さんは怒っていたよ。ただし、それは連絡が取れないことに対してで、紫乃のことは心配していた。前の……コル・ヒドレの時は紫茉さんの病院にかつぎ込まれたし、極秘扱いにもなっていただろう? だから、怒りつつも紫茉さんもその辺の事情はわかっているだろうと思う。PTSDじゃないかと、それも心配していた」
「……一つには、それもあるかもしれませんね……」
「ああ」
「あのときは必死だったけど、それでもすごく怖かったから……ひょっとしたら、その時の恐怖が、今更のように甦ったのかもしれません」
「それだけ冷静に状況が判断できるのなら、大丈夫だね」
「だから、もう、大丈夫だと何度も」
「うん、そうだね」
 のらりくらりと橋爪の怒りをかわすのはいつものことだけど。
 橋爪の手を解放して、正面から彼を見た。
 赤く腫れ上がった頬も、真っ赤になっている瞳もそのままだけど、それでも強い意志を秘めた瞳の力は僅かながらも戻ってきているから。
「紫茉さんと話せる? きっと紫茉さんだって紫乃の言葉を待ってると思うんだ」
「……いいのですか?」
「紫乃が声を聞かせれば安心してくれると思うんだ。だから、きっと紫茉さんだって電話してきたんだと思うよ」
「……さっきの着信……」
「ああ、石川から電話があったのも事実だけど、紫茉さんからもあったんだ。今はまだ何も言わなくてもいいから、ただ声を聞かせてあげればそれで安心してくれると思うんだ」
「……そう、かもしれませんね」
「今日じゃなくてもいいんだよ?」
「決心したときじゃないと。余計に電話すらし辛くなる」
 それでも小さく橋爪は微笑んで。
「……携帯、お借りできますか?」
「ああ」
 西脇はベッドから降りると、橋爪に携帯を渡した。
「これが着信履歴だ」
 隠すものは何もない。だから、あえて先ほどの言葉を裏付けるかのようにすべてをさらけ出して。
「これが紫茉さんから……ほら、30分くらい前」
「……はい」
「そのまま発信ボタンを押したらいい」
「西脇さん……?」
「風呂場、掃除してくるよ」
 席を外すと言っても橋爪は気にするだろうし、かといって傍らにいても自分の存在のために話せることも話せなくなるのは避けたいことだった。だからこそ、そばにいるけど話は聞かないと言うスタンスを守るためにそう提案して。
「……はい」
 それでも深く頷いて、橋爪は発信ボタンを押した。そのまま携帯を耳に押し当てる。
『西脇さんっ!?』
 紫茉の怒号が受話器を通さないでも響いて聞こえる。と言うことは直接受話器を耳に押し当てていた橋爪には直撃だったろう。一瞬、携帯を耳から外して橋爪は苦笑した。
「……紫茉? 私だよ、紫乃……」
 橋爪は穏やかに電話の向こうに向かって微笑みかけた。
 西脇は小さく苦笑すると、橋爪の頭を軽く撫でバスルームへと入った。


 あらかた掃除を済ませてバスルームから出ると、橋爪は携帯を握りしめていた。
「……怒られてしまいました」
 小さくクスリと笑って、橋爪は西脇に携帯を渡した。
「電話、ありがとうございました」
「いや。紫乃にも怒ったんだ」
「ええ、どうして紫茉の病院に行かなかったんだって」
「……望むなら、今からでも転院できるぞ?」
「そして、1日か2日おきかもしれないあなたの訪れだけを、ベッドの中でひたすら待てと?」
「紫乃……」
「そんな意味のないことはごめんです。それくらいなら、仕事に戻った方がましだ」
 ぼそぼそと呟いて。
 西脇と一緒にいたいとは思ってくれているようだ。
「……でも、今は、戻っても診察すらできない」
「……分かってるんだ?」
「そうですね……隊員達とも面と向かって相対すれば大丈夫かもしれません。でも、いきなり医務室に入ってこられて、声でもかけられたら、多分私は正常じゃいられない。さっき、それも痛感できましたし……それがわかる程度には冷静ですよ?」
 寮への帰り道。何度も隊員たちの姿に立ちすくみ、駆け寄って放しかけようとする隊員に怯えた。それが橋爪の本意ではなかったとしても、強張る身体だけは自らの意思ではどうにも出来なかったのだろうから。
「うん……そうだね。でも、あそこに戻りたいんだろう?」
「もちろんです」
 強い瞳で真っ直ぐに見つめられ。
「なら、いいじゃないか。ゆっくりでいいと思うよ……隊員に慣れて、まっすぐにまた向き合えるようになってからで」
「……はい」
「大丈夫。紫乃のことだから、きっと、引きこもっているのにも飽きて、そのうち飛び出すから」
 多分、今の橋爪なら大丈夫だろう。自分の状態も環境も分かっているから。
 今のまま、少しずつゆっくりと時間をかけて―――
 寮と病棟の往復で隊員たちに馴れて、食堂で隊員たちと食事が取れるようになったら、きっと真っ直ぐに隊員たちとも向き合えるはずだから。
 それも遠い未来の話ではないはずだ。 
 このときはそう思っていた。

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