[PR] 脂肪吸引 永遠の詩 忍者ブログ
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031
 西脇がバスルームから出ると、橋爪はパソコンの前でぼんやりとディスプレイを見やっていた。既にスクリーンセーバーに変わっており、かなり長い時間そのまま放置していたのだろうことが伺える。
 おそらくはいつもの習慣でのメールチェックなのだろうが。
「紫乃?」
 驚かさないようにとゆっくりと声をかけて、横に立つ。
「大事なメールでも来ていた?」
「……あ、いえ、大丈夫です」
 慌てたように、橋爪は西脇を見上げて笑った。
「ならいいけれど。風呂、入ったよ?」
「あ……はい、ありがとうございます。でも、西脇さん、お先に―――」
「俺はさっきシャワー浴びたばかりなんだけど……そんなに、汗臭い?」
 わざと腕をクンクンと嗅ぐ素振りで笑いを誘おうとし、そして失敗した。橋爪は笑むどころか、顔自体を伏せてしまったから。
「―――紫乃」
 ただ、そう呼ぶことしか出来なくて。
「……悪い。入りたい時に入っていいよ。それ、まだ、やりかけなんだろう?」
 何も気にしていないんだと、必死で笑顔を取り繕う己の必死さが滑稽で。橋爪はゆっくりと頭を振った。
「……しばらく見ないと、メールって意外と溜まるものですよね……」
 小さく苦笑するように橋爪が呟く。
「そうなんだよな。いらない迷惑メールが大半だけど」
「ほんと……どこからアドレスを探してくるんだとか思いますよね……」
 くすりと笑って橋爪はマウスを動かした。スクリーンセーバーが解除されて現れた画面には、ロスから送った自分のたった2行のメールが開かれていた。
「……それって……」
「……すごく幸せだったんです。たったこれだけの文章でも」
 橋爪の頬をゆっくりと涙が伝い落ちていった。
 ひょっとして、同じような幸せはもう来ないと思っているのか……過去形で話す橋爪を見てることが苦しくて。
「……でも、おかげで紫乃に1日早く会えたよ?」
 そんな風にしか言い繕えない自分の矮小さが堪らない。
「……そうですね」
 デスクの端に置いていた手に、そっと橋爪の手が触れてきた。橋爪なりの必死のコミュニケートなのだろうか。
「かえって良かった、のかもしれませんね……」
 ただ、橋爪もそう笑って。
「ああ、そうだよ。だから、よかったんだ」
 自分でも、よかったなんて思ってないくせに。こんな時に偽善者ぶるのは自分の悪いくせかもしれないが。
「まだ、なら―――ちょっと食堂に食器を返してくるよ。風呂、好きなときに入っていいから」
「あ、はい……じゃ、入ろうかな……」
「ああ、好きなだけゆっくりするといい。前に紫茉さんからもらった入浴剤も入れてるし」
「そうさせてもらいます」
「……ん」
 緩く伏せられた目蓋の上に小さなキスを落として。
「すぐ戻ってくるよ」



 食堂に食器を返して、そのまま足早に中庭へと出た。小さな溜息をつくと携帯を取り出した。
 相手はもちろん、橋爪の姉だ。
 数回のコールの後、電話に出た紫茉は無言のままだった。
「……紫茉さん? 聞こえてるよね?」
『……誰よ?』
 不機嫌全開で、やっと紫茉が電話に出る。着信の表示で相手が誰だかはわかっているはずなのに。
「西脇、だけど?」
『西脇って誰? 私、知らないわ、そんな人』
 声の調子から、相当に怒りまくっているのは想像に難くない。
「……都合悪いなら、後でまたかけ直すよ」
 紫茉も医師である以上、いや橋爪以上に、勤務時間外だとて働いている可能性は高い。
 紫茉の深いため息が電話越しに聞こえてくる。
『……西脇さん、今更なんなの? 今頃になって、のこのこと電話?』
「昨日帰国したばかりで、バタバタしていたんだ。そう言わないで……」
 西脇もため息混じりに電話越しに呟いた。きっと面と向かっていたら、平手どころか拳の一つも飛んできそうだ。
「紫乃の状況は、三浦さんに訊いてるんだろう?」
『訊いてても、心配しちゃいけないわけ? へぇ、そうなんだ。ふうん』
「……いや、紫茉さんの心配はもっともだ」
 突っかかってくる紫茉へは、とにかく低姿勢で挑むしかないことは、今までの決して短くはない付き合いから分かっているが。
 ただ、どこか冷たい物言いになってしまうのは仕方ないだろう。
『……で、今、紫乃は?』
「今、風呂に入ってる。だから、電話した」
『……あ、そう。紫乃にも内緒で、ねぇ』
「……紫茉さん。さっきから、棘、刺さりまくりなんだけど?」
 思わずぼやいてしまった西脇に、鋭い声が耳に突き刺さる。
『刺せるものなら、とっくに刺してるわよ!』
「……で、マジに時間は大丈夫?」
 電話の向こうでゆっくりと呼吸を整える音がした。
『大丈夫じゃないけど、大丈夫にするわ』
 ようやく聞こうという姿勢を見せてくれ、西脇は知れず安堵の息をついた。
「はいはい、ありがとう。で、結論からいうと、紫乃はしばらく静養する事になった。期間は未定だ」
『それは三浦さんにも聞いてたけど。紫乃、そんなに酷い怪我なわけ?』
「俺も傷は見たけど、怪我自体はそれほど酷くはない。たぶん、あと数日もすればそれなりによくはなると思う。ただ、紫乃がテロリストに襲われるのは初めてじゃない」
『……あのときの恐怖が蘇りでもしたかな。酷い怪我だったものね』
 ため息混じりに紫茉がぼそりと呟いた。PTSDだと簡単に片付けられるものでもないのだろうけど……きっと、紫茉はそう思ってる。
「それも理由の一つだろうと思うよ」
 だから、あえて否定もせず。実際、前のテロ事件があったから、余計にだと思うし。
 西脇はゆっくりと呼吸を整えた。
「頑張るから。大丈夫だから。紫乃はそういう。でも、そういっている間はまだ大丈夫じゃない証拠だろう? だから診療もまだ任せられない……有給も溜まっていることだし、しばらく休むのもいいだろうって、堺さん達とも話した」
『怪我だけならともかく……紫乃の心の傷が「はい、そうですか」ってすぐ癒えるとは思わないわ』
「ああ……だから、しばらくは大人しく静養させる。隊員達相手にでさえ、怯えて接しているようなんでね……たぶん、一部の人間を除いて、対人恐怖症も出ているのかもしれない」
 知らず熱くなった目頭をきつく押さえて、西脇は呟いた。
『……西脇さんは大丈夫だったんだ?』
「俺も拒否されたよ、最初はな……今は何とか隣にいることは受け入れてくれるが、それでも不意打ちで手を伸ばすとやっぱり怯えたように体をすくめる」
『……もし、あなたがしんどいようなら、うちの病院で受け入れるわよ? その方が、紫乃の方も気が楽なんじゃない?』
「いや、それでも隊員の間にいた方がまだいいとは思うから。隊員から逃げてたって、よくはならないだろうし……ごめん。心配させて」
『……そのうち、でいいわ。紫乃と話せるわよね?』
「ああ、もちろん。大丈夫そうなら、後でまた電話させる……けど、この事件のことはあまり触れないでほしいんだ。あとで紫茉さんには俺が叱られるから」
『あら、殊勝な覚悟じゃないの』
 電話の向こうでくすりと小さく紫茉が笑う。
『ついでに、お見舞いもできるわよね?』
「24時間いつでも通すよう、外警の連中には伝えておく。今日、これからでも構わない。逢いたい時に来てくれ」
『……分かったわ』
「待ってるよ」
 西脇はゆっくりと終話ボタンを押し、通話を終了させた。
 先ほどと同じく外壁にもたれ、溜息をついて。
 長い夜はまだ始まったばかりなのかもしれない。


 

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