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032
 そして、気を取り直すと、次は石川へと電話を繋いだ。
 石川たちの姿は食堂では見かけなかったし、いくら残業をしていたとしても、もう部屋には戻っているだろうからと思って。
『西脇か』
 案の定すぐ電話に出てくれた石川に、微かに労わりを含んだ柔らかな声で呼ばれた。
『何かあったのか?』
「いや。少し聞きたいことと頼みがあってな……今、大丈夫か?」
『大丈夫だが……この電話でいいのか? 何なら……』
 石川のことだ。直接会って話を聞いてくれようとしているのだろう。しかし、西脇は見えるはずのない寮の部屋の方を見上げた。
「このままでいい。あんまり部屋を空けてもいられない」
 西脇はぐっと携帯を握り直した。そして、平然とした声音を装って。
「三浦さんに聞いたけど、Drの携帯、遺留品として警察が持って行ったって?」
『……ああ、そうだ。事件の時、Drは携帯で医務室と連絡を取ってたろ? だからな―――でも、落とした衝撃でか壊れていたらしくて、解析に時間がかかってるようだ』
「……そうか」
『……Dr、気にしてるのか?』
 電話越しの深い溜息が聞かれでもしたのか。石川がおずおずと聞いてくる。
「いや、Drは何も言わない。ただ、さっきもパソコンの方でメールチェックはしていたから……」
『そうか。でも、言わなくても気にはしてるよな……解析が終わったら返却するという話だから、警察に催促しておく』
 多くを言わなくても理解してくれるのは石川だからか。
「そうして貰えると助かるよ」
『Drの携帯なら、おまえの秘密もたくさんありそうだな』
「おまえじゃあるまいし……そんなんじゃない」
 石川が携帯に岩瀬の寝顔を待ち受けにしていたことは記憶に新しい。知られてないと思っていたところも石川らしいが。
 何故か、石川が声を立てて笑う。
『ま、西脇のことだし。下手なことはしてないだろうけどな』
「Drがどうだかは分からないがね」
 思わず苦虫を潰したように顔をしかめてしまった。
『分かった、分かった。俺が責任持って問い合わせるから安心してろ』
「……ああ、頼むな」
 電話越しで見えないとは分かっていても、自然と深く頭を下げてしまった。
『あ、西脇』
「……何だ?」
『Drはどうしてるんだ? 今日は会いにも行けなかったからな』
「今夜は寮に戻った。今は、風呂に入ってるはずだが」
『退院できたのか!』
 幾分かほっとしたような声音の石川に、西脇は頭を振った。
「ただの一時帰宅だ。帰るといってぐずって聞かないから、三浦さんが渋々許可しただけだ」
『そうだろうな……まあ、Drの我侭なんて滅多に聞けないんだろ? 役得だと思って甘受することだな』
 面白そうに言われてカチンと来た。
「おまえこそ岩瀬に甘えてやれ。事件以来、ずっと放ったらかしじゃないのか?」
『ちょ、おま、それ関係ないだろ』
 とたんに慌てだした石川に溜飲を下して。
「大有りだ。ただでさえ、ここのところ残務処理でバタバタしてたんだろうが。後で俺のところに泣きついて来られても面倒だ」
『ただ……今はまだ、そんな気にはなれないだけだ』
 テロリストの残した傷跡はこんなところにも残っている。ただ、石川は笑うことでそれを払拭しようとしているだけなのだろうか。
「……悪かったよ」
 西脇にそう謝罪の言葉をいわせてしまうほど、石川の声音が一瞬で変わってしまったから。
『いいよ……気にすることじゃない。俺の気持ちだけだし、岩瀬も分かってくれてると思う。じゃ、あとで連絡しておくよ。何か分かったら、すぐ連絡入れる。携帯でいいんだろ?』
 それでも、すっと気持ちを入れ替えて、現実へと戻ってくれるのはそれだけ大事なことだと思ってくれているからだろう。
「ああ、頼むよ。それともう一ついいか?」
『あ、ああ、構わないが』
「やけに安請け合いだな。とんでもないオネダリだとかは思わないのか?」
『まさか。だって、西脇だからな』
 あっさりという石川の言葉に西脇は苦笑して。
「……どんな理由だよ……で、明日の朝、朝礼は休んでも大丈夫か?」
『ああ、それなら大丈夫だが……体調が辛いようなら、朝礼だけじゃなくて、丸一日休んでもいいんだぞ? 今日の代休ってことでさ。明日は羽田も出勤するんだろ?』
「そうじゃない、そうじゃ」
 笑うことで、石川の不安を何とか払拭しようとし。
「Drを寮から病室に戻すだけだ。隊員がいる時間帯だと何かと面倒なことになる……朝礼中なら、そこまで出歩いている隊員もいないだろ」
『……やっぱり、隊員にも怯えてるか』
「ああ。その上、むさい男どもが、Drの顔見て駆け寄ってこようとする」
『それだけ慕われてるんだろうけど』
 ふうっと石川の溜息が聞こえた。
『いいよ、西脇。都合のいい時間に出勤しろよ。それくらい調整してやる』
「ああ、悪いな」
『その代わり、ちゃんとDrは病室に送り届けろよ?』
「もちろんだ。悪かったな、いきなり」
『いや、構わないから』
「そういってもらえると助かる。じゃ」
『ああ』
 終話ボタンを押して。眉間を指で押さえた。ズシリとした疲労を感じる。
 それでも立ち上がって、西脇が歩き出さなければ、橋爪に歩みを促すことも出来ない。
 ここ数日で一体何回溜息をついたのだろう。ひょっとしたら、一生分の溜息をここで付いているのかもしれない。
 楽になりたいのだろうか……
 このまま、橋爪の手を離し、今までの自分と同じように自分のことだけを考えて歩いていくのなら。
 誰も心に住まわせず、誰も心に立ち入ることを許さない。都合のいいときだけ、他の人間の肌の温もりを求める。
 そんな無味乾燥した日々へと戻るのなら……
 楽にはなれるのかもしれない。
 ただ、一度手にした幸福を忘れることが出来るのなら、だ。

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