[PR] 脂肪吸引 永遠の詩 忍者ブログ
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034
 シャワーを止め、橋爪の髪から零れる雫を軽く絞った。
「少し、湯に浸かるか? 傷に染みるかもしれないが」
 西脇の言葉に、橋爪はゆっくりと首を振って。
「……西脇さんも、なら。そのままじゃ、風邪引きますよ?」
「一緒に入ってもいいの?」
「……だって、その格好じゃ」
「……そうだね。ありがとう。待ってて」
 西脇は手早く濡れた服を脱ぐと、軽く体に湯を掛けた。
「少し温めだけど」
「……その方が、西脇さんの疲れも取れるでしょうし……」
「……紫乃、おいで」
 西脇は先に湯船に入ると橋爪に手を伸ばした。橋爪が縁を乗り越えて浴槽に入ってくると、その身体を足の間に据えて後ろからそっと抱きすくめる。
「あ……」
 橋爪の身体がぎゅっと強張る。微かに身震いしているのは恐怖のせいなのか。
「―――怖い?」
「……怖くないっ 怖くない、です」
 頭でわかってはいても、身体がそう反応してしまうのは仕方ないのだろう。必死で自らに言い聞かせようとしている橋爪に、ついため息が漏れる。
「間違えないで、紫乃。後ろにいるのは俺だよ? 怯えてもいいから、現実を忘れちゃ駄目だ」
 橋爪が西脇の腕に手をかけ、ゆっくりと頷いた。さっきよりは震えが小さくなり、やがて安心しきったように西脇に凭れてきた。ただ、受け入れるのに時間がかかるだけだ。
「……さっきな」
「……え?」
「紫茉さんと電話で話したんだ」
「紫茉と……ど、して……」
「紫茉さんも紫乃のことを心配しているからだろ。三浦さんに叱られた……というより頼まれたって方が近いか」
「そう……」
 橋爪は胸元近くの湯をすくっては浴槽の中へ落とし戻すということを無言のまま何度も繰り返した。まるで子どもが水遊びをしているかのようで。
 橋爪の中で、ひょっとしたら、言葉に出来そうにもない感情が渦を巻いているのかもしれない。
 揺れる水面を見つめる橋爪の無表情な横顔をのぞきながら、何となくそんな風にも感じて。
「……紫茉と……」
「ん?」
「紫茉と、三浦医師って……結局、どんな関係なんでしょうね……」
 しばらく湯と戯れたあと、橋爪がポツリと呟いた。
「紫茉さんは、ただの外科医仲間だとでもいいそうだな」
「……ただの医者仲間よりは親密そうですが」
 ぼそぼそと橋爪は言葉を続けた。
「私と陽がいて、その横に紫茉と三浦医師がいた。だから……特別な何かがあるのかもしれないし、ないのかもしれない」
「……紫茉さんが、三浦さんと一緒になるのはいや?」
「……紫茉が望むのなら仕方ないでしょう? その時は祝福しますよ、もちろん」
「仕方ない、ね」
「……別に、嫉妬しているわけではありません」
「はいはい」
 橋爪の肩口に額を預けた。温もりも香りも以前のままなのに。どうしてもすれ違うこの心が辛い。
「……でも、ま、本当にそうなったら寂しくはなるよな」
「……西脇さん?」
「俺にとっても姉みたいなものだし?」
「……いいんですか、それで」
「ん? だって、紫乃のお姉さんだから、俺の義姉も同然だろ?」
「……はい」
 橋爪は西脇の腕をきつく掴んで頷いた。
「……西脇さん、そろそろ上がっていいですか?」
「ちゃんと温まった?」
「充分です……」
「よし」
 橋爪の脇の下に手を入れ、自分が立ち上がるのと同時に橋爪を立ち上がらせた。
「あの、西脇さん、自分で」
「気にするなよ」
 笑って浴槽から連れ出すと、脱衣所に導いた。棚から取り出したバスタオルを広げると、ばさりと上から被せた。
「ほら、ちゃんと拭かないと風邪引くぞ」
「分かってます」
 橋爪が髪を拭う間、西脇は血の滲んだ肌の上をタオルでそっと押さえた。間違っても血の滲んだ部分が橋爪の目に触れないよう、内側に包み込んでは床に放った。
「紫乃、そのままソファで待ってて」
「あの、服がそこに……」
「消毒が先だ。あとでいくらでも着せてやる」
「……はい」
 小さく、それでも返事をし、橋爪はバスタオルを羽織ったまま出て行った。
 西脇は血のついたタオルをゴミ箱へ慎重に隠した。腰をタオルで巻きドライヤーを握ると、橋爪の置いていた着替えを抱えてバスルームを出た。
「紫乃」
 橋爪はソファに座ったままぼんやりと中空を見やっていた。ぽとりと髪から水滴が落ちては肩に掛けられたタオルへと吸い込まれていく。
「あ、はい……」
「先に、髪から乾かそうか」
「……すみません……」
「どうして? 役得だよ」
 悪びれず笑うと、再びタオルで橋爪の髪を丁寧に拭った。
「それに、紫乃の髪、俺は好きだしね。堂々と触れられるんだから、すごく嬉しいよ」
 ゆっくりとドライヤーの風を当てながら、小さく笑った。指を通すたび、ゆっくりと解け柔らかくなった髪が指の間を通り抜けていく。
「……西脇さん」
「うん」
「……甘やかしすぎ」
「そうかな……」
 ドライヤーの電源を切った。
「でも、いいんじゃない。プライベートの時くらいさ。そのほうが俺も嬉しいし……タオル、取るぞ」
 明かりの元に橋爪のほっそりとした裸体が暴かれる。
 何をするわけでもないのに、それだけでぎゅっと体を強張らせ、目をきつく閉じてしまった。
「大丈夫、手当てするだけだ」
「……はい……っ」
 再び訪れた恐怖に身をすくめながらも橋爪は頷き、やっと目を開いた。
「怖いことは何もしない」
 橋爪が小さな頷きを返すのを確認して、西脇は三浦から託されたバッグを引き寄せた。
「染みるからな」
 消毒液を浸したガーゼで軽く血を拭い、更に綿球で丁寧に傷を消毒していく。深い傷には滅菌ガーゼのパックを破って押し当て、テープで固定していく、それ以外の小さな傷は保護テープを貼り、痣の残る部分には丁寧にシップを施して。
 擦り剥いたような膝の傷以外は、橋爪の手の届く場所ばかりだ。きっと、ほとんどの傷は、橋爪が自ら自分の肌を引き裂いた証なのだろう。
「……いっそのこと、全身を白い包帯で巻くとミイラみたいで可愛くなるかな?」
「……すみません」
「そこ、笑うとこだろ? 謝るなよな」
 道具を片付けながら西脇は笑い。
 幾分かは本気だった。全身を包帯で巻き覆えば、橋爪の爪は自分の肌を引き裂くことはないだろうから。
 それが出来ないのなら、何か別のことで代用するしかないが。
「ほら、終わり。服着ていいぞ」
 そして、手元の着替えを差し出した。しかし、それは薄手の半袖のシャツで。
「出来れば、長袖を着てくれると嬉しいかな。クーラーつけるから」
「そうですね……出してきます」
 手早く衣類を身につけると、橋爪はキャビネットを開いた。
 奥にしまいこんだ中から、シャツを引っ張り出して羽織ってくれた。
 傷がシャツに覆われ見えなくなるだけで、なぜかほっとする。
 万が一、橋爪が再び肌を引き裂くことがあったとしても、シャツの上からならそれほどダメージはないはずだから。意識があるときなら、もちろんそんなことはしないはずだろうし。
 西脇は歩み寄ると橋爪の身体を抱きしめた。柔らかなリネンの香りが西脇の鼻腔をくすぐる。
 もう、これで全てが終わればいい。
 もう、何も怒らなければいい。
 ただ傷が癒えさえすれば、またこうして橋爪を抱きしめることができるようになるだろうから。
 泣きたくなるような気持ちを押し殺して、ただ無言のままに橋爪の痩身をきつく抱き寄せた。

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