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029
 病棟から東館へ抜け、いつもの通りに寮へと戻ろうとした。橋爪が外の世界を認識できるよう、ゆっくりと歩みを進めて。
 しかし、橋爪の表情は晴れるどころか、どんどん強張っていくだけで、しまいには俯いてしまった。
 西脇はそんな橋爪を見やることしか出来ず、ただ小さな溜息を重ねるだけだった。
 東館から通路へ抜けようとしたところで、館内を巡回していた室管理の隊員にばったりと出食わしてしまった。
「あ、Drじゃないですか!」
 隊員の大声にびくりと橋爪が体を竦めた。
「もう、復帰ですか?」
「あ……いや……」
「おい。まだ、Drは本調子じゃないんだ」
 西脇は己の迂闊さに小さく舌打ちをし、橋爪を背で隠すように隊員の前に立った。
「え? そうなんですか?」
「一時帰宅したから、メディカルルームに寄っただけだ」
 じろりと西脇が睨むと、目の前の隊員は萎縮したように僅かに後ずさった。
「あ……すみません。その、俺、騒いでしまって……」
「……いや、いいんだ」
 橋爪は西脇のシャツの背を掴んだまま、それでも隊員にゆっくりと微笑んだ。シャツを掴むその手が微かに震えているのが、布越しでもはっきりと分かる。
「……いや、頭ごなしに悪かったな。すまんが、オフレコにしといてくれるか? あんまり、今、騒ぎ立てたくはないんだ」
「あ、はい。すみませんでした」
「……こっちこそ悪かったね。気を使わせてしまって」
 気丈に橋爪は隊員に向かい。でも、平静でいられないのも事実で。微かに声が震える。
「ほら、巡回の途中なんだろ?」
「はい。失礼しますっ」
 隊員を促すようにして見送ると、西脇はあえて東館をでた。
 館内の通路を行けば、明るいし近道でもある。しかし、今のように隊員に遭遇する確率も格段に跳ね上がるだろうから。
 東館を回り、木立で隠れた死角の場所までようやく歩みを進めて。
「……紫乃」
 橋爪は先ほどの隊員との遭遇が堪えたのか、一層その顔を青ざめさせていた。
「ここで少し休憩しよう? ここなら余計な隊員は来ないから」
 ひょっとしたら外警の誰かが巡回してくるかもしれない
。でも、それは自分の一睨みでどうにでもなるだろうから。
 二人そろって壁に凭れて。そっと繋いだ橋爪の手はやはり小さく震えていて、西脇はぎゅっと力を込めてその手を握り締めた。
「紫乃……隊員達が怖い?」
「怖くなんて……」
 しかし、橋爪は俯いてしまった。しゃがみこまないのが不思議なほどで。
「揃いも揃って体のでかい連中ばかりいやがるからな、ここは」
 自分のことは棚に上げて、西脇は軽く笑った。
「でも、大丈夫だよ。みんな気のいい連中だから、紫乃に何かすることはあり得ない。それは紫乃が一番よく分かってるよね?」
「ええ……そうですね……」
 絞り出すように橋爪は肯定の言葉を口にした。
 それでも、幾らかの怯えが混じるのは、現時点では仕方ないことなのだろうから。
「……寮に入ると、きっとまた隊員に会うよ。今なら、まだ、病棟に戻れるけど……」
 西脇は真っ直ぐに橋爪を見た。
「……西脇さん……」
「部屋に戻れるんだね?」
「……戻らせてください、あの部屋に」
 自分達二人の、狭いけど沢山の思い出が詰まった部屋に戻りたいと橋爪は思ってくれるのか。
「……帰りたいんです」
 切れ切れでも、その望みだけははっきりしているようで。
「分かった。もし、怖かったら掴んでていいからな」
「―――はい」
 橋爪の手を離し、ゆっくりと肩を押して促した。


「あ、Dr!」
「Dr! お帰りなさい!」
 西脇が危惧した通り、寮に戻るなり橋爪の姿を認めた隊員たちが駆け寄って来ようとした。
 もちろん、西脇が一睨みして、隊員たちを威嚇する。橋爪を囲もうとした隊員が一瞬怯んだ隙に、西脇は橋爪の手を引き掴むとすたすたと歩き出した。
「……西脇さん!」
 半分悲鳴のような呼びかけに、西脇ははっと我に返った。
「西脇さん、待って」
「……悪い」
 西脇は慌ててその手を解放した。橋爪はそっと手首を擦る。
「……すごい力」
 橋爪は苦笑した。西脇が掴んでいた場所は真っ赤になっていた。
「あなたが本気になったら、ぜんぜん敵いませんね」
「腕力だけあっても仕方ないだろ? ……悪かった。手首、赤くなったな」
「……大丈夫ですよ」
 階段を共に上がりながら、橋爪は微笑んだ。
「それに、西脇さんがつれて言ったおかげで、他の隊員に声をかけられずに済みました」
「……なら、いいんだけどね」
 部屋に着くと、ゆっくりと開錠した。微かな音を立てて、扉が開き二人を迎え入れてくれる。
 橋爪を促し、ゆっくりと先に部屋に入った。あの日から部屋の中はほとんど変わっていないはずだったから。
「あ……」
 微かに尻込みをする橋爪に、西脇はあえて笑みを浮かべて手を差し出した。
「……お帰り、紫乃」
 躊躇うように何度もその手と西脇の顔を見、橋爪は自分の意思で、自分の足で部屋に入ってきた。西脇は橋爪の体をそっと抱きしめた。
 橋爪が、ではない。自分が安心したかったのかもしれない。
 橋爪紫乃という男の存在をこの手で確かめたくて。
「……はい。ただいま」
 そして、軽く触れ合わせるだけの小さな口付け。
 それだけでも安心して、泣きたくなるほどの幸せを感じて。
 ソファへと導き座らせると、橋爪は居心地が悪そうに微かに身動ぎしてしまった。
「……食事できる?」
「あ、はい」
 橋爪は慌てて取り繕ったような笑みを浮かべ、西脇を見上げた。
 今はまだ焦るまい。
 やっと、これからなんだ、と自らに必死で言い聞かせながら、笑みを浮かべて橋爪を見た。

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