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016
 薄闇に支配されるまま、感じた人の気配に西脇はふと沈みかけていた意識を手繰り寄せた。
 ふと視線を落とすと、橋爪は西脇を枕にしたまま、穏やかに寝息を立てている。
 いや、気配を感じたのはドアの外だ。
「……誰かいるのか?」
「……失礼するよ」
 シュッと軽く音を立てて、ドアが開いた。そこには三浦医師が立っていた。
「……入ろうかどうしようか、ちょっと考えあぐねていたところだった」
 許可を得ることもなく、三浦は病室に入ってきた。
「……入院患者の見回りなんだろ? 遠慮することはない」
「うん。そういってもらえると助かるけどね……おや」
 三浦の目は眠る橋爪に注がれていた。
「……Dr、やっとゆっくり休めたみたいだね。うん、よかった」
 そして、西脇を見やった。
「……ちょっと触れるよ」
 無断で触れると、自分が気を悪くするとでも言うのだろうか。
 医療行為と割り切って静観できる程度の理性は持ち合わせているつもりなのに。
 少しだけ唇を歪めて微苦笑を浮かべると、三浦は眠る橋爪の手首をさらい取った。片方の手は西脇が握ったままだ。じっと時計を見て橋爪の手を解放すると、少し厳しい顔で橋爪の頬と額に触れた。
 無言のままに橋爪を見つめる三浦に、西脇はぼそりと問いかけた。
「……微熱があるんだろ?」
「知ってて、君……」
 ぼそぼそと、だが語気だけは強く三浦は西脇を睨んだ。
「……Drが必要ないと。実際、今は体をちゃんと休めることの方が先決にも思えたからね……」
「……でも、Drは、今、まともな状態じゃない」
「分かってる。だからこそ、Drの望むようにもさせて……ちょっと出よう。Drが目を覚ます」
 西脇はため息をつくと橋爪の手を解放し、枕の上にその頭をそっと横たえた。
 ただ、安心しきったように無心に眠りを貪っている姿からは、いまの彼の置かれている現状など想像もつかないことだった。
 それが病室という異空間でさえなければ、だが。
 真っ白な壁と天井。真っ白なシーツや布団のカバー。決して落とされることのない照明と、かけられることのない鍵。
 やはりそれは日常生活には異質なものだった。
 明るい病室を出ると、反対に廊下は薄暗くて。西脇は壁に凭れた。
「……西脇さん、目が赤いよ? 疲れているようだけど、部屋に戻って休んだら? ろくに寝てないんだろ?」
「……俺なら2、3日なら寝なくても大丈夫だから」
「帰国したばかりで、まだ体も時差に対応しきってないはずだ」
「そんな柔な体はしていない……それに、今は、Drについててやりたい。さっき、少しうとうとしたから。それで十分だけどね」
 西脇は深く息をつき、呼吸を整えた。
「けどね、君」
「三浦医師―――正直なところを聞かせて欲しい」
 なおもいい募ろうとする三浦を遮って、西脇はまっすぐに三浦を見つめた。
「……いいよ?」
「Drは……Drの精神状態は、あんまりいい方じゃないんだな?」
 西脇の言葉に三浦は目を瞬いた。
「君が帰ってきてから、だいぶましになってきたんじゃないのかな」
 さっきもよく眠っていたしね、と三浦がぼそぼそと続ける。
「堺さんも言ったと思うけど、時間だけが薬だよ。傷も外見ほど大したことないし、自分さえその気なら普通に食事して普通に生活だってしていい」
「……その気じゃないと」
「食事を取らない。トイレに行かない。入室してきた人間に怯える。自分で自分を引き裂く……どれだって、いつものDrじゃないよ」
 ふうっと三浦はため息をついた。
「だけど、こればっかりは、君がDrにどうこう言ってもだめじゃないかな。むしろ逆効果だと思うけど。どこかでDrが自分の感情と現状に折り合いをつけるまではね」
 ぐっと西脇が拳を握った。
 自分の無力感を駄目押しされた、そんな気分だった。
「……Drの復職の予定は?」
「今のところ未定。今のDrに、診療は任せられない。たとえ、Drがそれを望んだとしてもね」
「……だろうな。強がっちゃいるが」
「え?」
 意外そうに西脇を見やってきた三浦に、西脇は唇の端をゆがめた。
「Dr、明日から働くって言ってるよ。俺を安心させるためだろうけどね」
「そんな、無茶だ」
「そうだろうな」
 凭れていた壁から身を離すと、西脇は軽く自嘲気味の笑みを浮かべた。
「まあ、本人も分かってるだろうとは思うが……ね」
「……西脇さん」
 病室に戻ろうとした西脇を、三浦は呼びとめた。
「Drと一緒のベッドなのは黙認するから、ちゃんとベッドで横になった方がいいと思うよ。今日から、勤務なんだろう? 夜が明けたら、看護師が巡回する前に起こしにくるから」
「……2時間だけ仮眠をとるよ」
 小さなため息と共に、西脇はそう吐き出した。
 三浦も露骨にほっとしたような表情を浮かべた。
「うん、それがいいと思うよ」
「……そんなに酷い顔色でもしてるか?」
「酷いというよりも、怒り狂ってるって顔だね。Drや犯人に、じゃない……よね。きっと自分自身への怒りなのじゃないかと見えるけど」
「はっ……」
 西脇は笑い飛ばそうとして、失敗した。
 何故、この男はこう、ずけずけと自分の痛いところに踏み込んで来るんだ。
「……怒りを覚えないってほうがどうかしてるだろうが」
 そして西脇は病室に入りかけ、足を止めた。
 ベッドに半分身を起こし、ぼんやりと中空を見つめているのは自分の恋人のはずだった。
 いつもの寝起きのけだるそうな様子ではない。
 何故か、見知らぬ男のようにも見えてしまった。
「……Dr?」
「西脇さん? Drが起きたの?」
「あ、いや……」
 三浦の問いかけには曖昧に返して、西脇はずかずかとベッドに歩み寄った。
「Dr」
 少し強めに声をかけると、きつく目を閉じびくりと体を震わせた。再び自らを守るように体を抱きしめる。
「Dr!」
「……西……ん……」
 瞳がゆっくりと開いた。
「紫乃」
「……ああ……」
 ぼんやりとした瞳に、やっと光が戻ってきた。
「西脇さん」
「起きたんだ」
「……はい……?」
「Dr!」
 そこに三浦がずかずかと入ってきた。
「失礼するよ、西脇さん」
「事後承諾か?」
 ぼやいた西脇に軽く頭を下げて、三浦は橋爪の前に立った。
「……三浦さん……」
 橋爪はぎゅっと自らの体を抱きしめ俯いた。
「Dr、起きて平気?」
 再び額に触れようとする三浦の手を避けるように橋爪は体を捩った。
「あ……」
「悪い。Dr、さっきは熱があったみたいだけど、もう大丈夫?」
 まるで橋爪に謝らせる隙を作らないように、三浦は橋爪に畳み掛けた。
「あ、はい。すみません、心配かけて……もう、大丈夫ですから」
「大丈夫ならいいんだ」
 ゆっくりと笑みを浮かべる三浦に、橋爪はゆっくり頷いた。

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