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『帰国は20日の夕方の予定』

 たったそれだけの短いメールでの連絡文が、どれだけ自分を幸福にするのか。
 それは、メールの送信者である西脇にも分からないだろう。

 もともと、2週間の予定でLADGへと研修に出かけた西脇たちを待っていたのは容赦ない現実で。日本でと同じく第一線でテロに向かい自体を収拾させ、その上で研修のカリキュラムをこなす。
 それは、ある意味、日本にいるときよりもハードな多忙さかもしれなくて。

「一度でいいから、電話して」
 なんて、甘いオネダリでさえ、心のどこかでは無理だろうと思っていた。
 それでも、テロが落ち着いて、少しだけ時間が出来たのだろう。
 出勤前の僅かな時間の間に、西脇は電話をしてくれた。無事でいることを知らせてくれた。
 そして、笑みを浮かべているとはっきりわかる声で、橋爪の名を呼んでくれた。
 でも、反面、そのことが苦しくて悲しくて。
 目の前でその声を聞きたい。目の前でその微笑を見たい。
 二人で他愛もないことに笑い合って、その逞しい体をきつく抱きしめたかった。

 だからこそ。
 遅れていた帰国予定がはっきりと分かったことが嬉しくて。
 いつか得るとも分からない恋人を待つより、ずっと幸せで嬉しくて。
 橋爪の勤務中だと分かっていたのだろう、西脇はPCの方へその短いメールを届けてきた。
 橋爪は、何度もそのメールを開いては安心し、顔を綻ばせる。

「Dr? さっきから何を笑っているんですか?」
 高嶋がおかしそうに声をかけてくる。
「うん? ああ、ほら、平和だし、なんだか幸せだなって」
 数日前のテロ騒ぎも一段落し、怪我を負った隊員たちも既に全員仕事へ復帰できた。
 そのことも、橋爪の心を開放的にしている要因の一つだっただろうから。
「仕事柄仕方ないですけど……何もないと、確かに嬉しくなりますよね」
 こういう仕事だから、荒事は仕方ない。
 むしろ平和であること自体が少なく……だからこそ、より貴重で。
「お天気もいいことだしね」
 梅雨も終わり、暑い夏が来て。僅か2週間の間に、日本の季節は巡ってしまった。
「Drの古傷も痛まなくなりますね」
「……気付いていたのか?」
「平然とはしてらっしゃいましたよ? だけど、何となく、ね」
 ま、患者の微妙な容態の変化を見落とすことの出来ない仕事だから。それも当たり前だろう。
「雨が続くと、どうしてもね」
 自分の傷をこんな風に許容できるようになったのは西脇がいてくれたからだ。 石川をテロの手から守りきれなかった悔恨も、守ろうとした橋爪の勇気の勲章なのだと、いつしか思えるようになった。


「お疲れ様」
 そんなとき、堺がA室へと入ってきた。堺は橋爪と入れ替わりで夜勤に付く予定だ。
「お疲れ様です、堺医師。お早かったですね」
「思ったより道が空いていたからな。外はもうすっかり真夏日だな」
 そういいながら。堺はどっかりと椅子に腰を下ろした。
「今年は熱中症の患者が出なければいいんですけれど」
「外警の新人は必ず誰か犠牲になるからな。ある意味、外警の洗礼みたいなものか」
 笑いながら言う堺に、思わず橋爪は柳眉を顰めた。
「もう、医師っ! 笑い事ではありません!」
「西脇に、気をつけるよう言っとけ」
「生憎とまだ帰国してませんよ」
 からからと豪快に笑う堺に苦笑して、橋爪は冷蔵庫からアイスコーヒーを出すと3人分注ぎ分けた。
「高嶋君も少し休憩しよう」
「はい」
 高嶋もくすくすと笑いながら椅子に座った。
「ああ、生き返るな」
 目を細めて堺がコーヒーを口に運ぶ。
「まだあの3人は帰国せんのか」
「そろそろのはずですよ?」
「なんだ。しっかり連絡は取っとるのか」
「たまたま、ですよ。たまたま」
「あ、ひょっとして、さっきの、メールが来たからとか?」
 高嶋が微かに笑んで橋爪を見やる。それには橋爪もにっこり笑うことで誤魔化した。
「ん? 何だね?」
「いや、さっき、Drと平和だなーって話しをしていたんですけど」
「テロもないし、健診をサボる問題児もいない。平和ですとも」
 橋爪は笑って。そして、表情を改めた。
「堺医師、今日は特に病変した隊員はいませんでした」
「それは何よりだ」
「ほんとに。平和、でしょう?」
 そんな風に笑って。
 夜勤の堺へと申し送りすることもほとんどなく。
 今夜はきっと、堺も溜まったデスクワークやらカルテの整理などで時を過ごすことだろう。


 患者のカルテを見ながら、3人で他愛もない話をしつつ今度の予定健診の打ち合わせをしていると、既に窓の外は夕暮れ時で。窓からのぞく空は真っ赤に染まっていた。
「ああいう空を、茜空っていうんでしょうね」
「海岸で見ると綺麗ですよ、きっと」
 橋爪の言葉に高嶋が乗って来、それに堺が笑った。
「一人で見ても、寂しいだけだろ」
「キツイな、堺医師は」
 高嶋がグラスを片付けながらぼやく。
「その前に、彼女でも作るんじゃな」
 堺が笑いながら腰を浮かせた。
「ご馳走様。そろそろB室に行くかな」
「じゃあ、あとは堺医師にお願いしますね」
「はいはい、巡回だろ? あんまり重篤な患者は連れてくるなよ?」
「では、石川さんでも引っ張ってきましょう」
「ん? ヤバイ状態かね?」
「まだ、何とか大丈夫そうですが。表には出してませんが、やや過労気味ではありそうです」
「ま、3人が帰国するまでか。それとなく気をつけておこう」
「はい。一回りしてきますので、何かあったら連絡してください」
 高嶋と堺をB室へ送り出し、パソコンをしまうと代わりに銃を取り出した。
 必要はないと思いつつも、西脇に「護身用でいいから」と言われれば持つべきなのだろうと思うようにもなり。
 ペンライトや携帯、簡易救急用のミニキットなどをポケットに詰め込み、橋爪は大きく足を踏み出した。

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