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003
 小さくノックをして、マーティが篠井の部屋の扉を空けた。
 まだパジャマ姿のままベッドに腰掛けて、篠井は沈んだ面持ちでぼそぼそと電話の向こうと話していた。
「篠井さん?」
「すみません、マーティ。西脇さんも」
「……いや」
 じっと篠井の動きを待って。篠井は頷くと、そのまま自分の携帯を西脇に差し出した。
「日本でもテロが。外警とDrが負傷したようです」
「……Drも?」
 自分を含めテロの襲撃の際に真っ先に犠牲になるのは外警班である。それはよく分かっているし、覚悟の上で任務にもついている。
 が、橋爪は違う。専属とはいえ、隊員としての訓練は受けていても医師にしか過ぎない。多少、腕に覚えがあったとしても、だ。
「詳しくは隊長から。出てください」
 篠井は西脇に自分の話していた携帯を握らせると、部屋の電話を取り上げた。
 今度はどうやら、ヒューズ教官と話し始めたらしい。
 西脇は軽く息を整えると、電話を耳に押し当てた。
「―――西脇だ」
『……石川だ。朝早くからすまない』
「いや……テロだと?」
『ああ……』
 電話の向こうの声はかなり疲労を浮かべている。きっと、後始末に駆けずり回っていたのだろう。
「被害はどの程度なんだ?」
『幸い重傷者はいない。が、軽傷者は10数人……堺医師と……それと三浦医師にも来てもらって手当てしたから、大丈夫だと思う』
「そうか」
『ああ。ただ、何人かはしばらく休養も必要だから、シフト調整に羽田が大変そうだ。誰かさんがこっちにいないから』
 何故か、石川は軽く笑う。それに訝しさを感じて。石川らしくはない。何かを隠し、ごまかそうとしている。
 それは、きっと橋爪のことに違いなくて。西脇はゆっくりと息を吐くと、携帯を握りなおした。
「……石川、Drも負傷した、と聞いた」
 電話の向こうでごくりと息を飲む音がした。
結局はそれか、隠して誤魔化したかったことは。
『篠井に聞いたんだな……怪我なら、軽傷だ。打撲など少々……軽傷の範疇だろう』
「……手当ては受けたんだな?」
『ああ……堺医師がちゃんと』
 それでも、石川は何だか奥歯に物が挟まったような言い方をする。
 橋爪からメールをもらったのはそれほど前の時間じゃない。退勤前のほんのひと時という感じだろう。
 そのあと、退勤前にもう一度巡回をと外に出たのかもしれない。そして、巻き込まれたか……
「そうか、ならいい。分かった。こちらが終わり次第、戻る」
『西脇……っ』
 半分悲鳴じみた石川の呼びかけに、通話ボタンを押そうとした西脇の手が止まった。
 西脇の勘はそれを聞くなと訴えている。
 篠井が電話で話しながらも、西脇をじっと見ていた。
『西脇……だから……っ』
 電話の向こうで石川が叫んでいる。篠井はすでに話しを聞いていたのだろう。
「……隊長、話したいことがあるんなら、さっさと話してくれませんかね? こっちだって暇じゃない」
『だから、聞けって。俺もちゃんとDrから聞き出せたわけじゃない。推測の域を超えない。ひょっとしたら状況だけで、そういうことはなかったかもしれない』
 不安だけが大きくなる。何度も何度も感じた不安は、ひょっとしたらこれだったのかと。
「何がいいたいんだ? はっきりといえ」
『……だが』
 どうしても、石川は言いよどむ。言いかけては息を呑み、の繰り返しだった。
「もういい。なら、岩瀬に代われ。岩瀬から聞く」
『……そういうわけじゃない、そういうわけじゃ……』
「だから、どういうわけなんだ?」
 西脇は深いため息をついた。そして、髪をかき回した。
「あのな、石川。俺だって万能じゃない。言われなきゃ分からないことの方が多い。状況証拠なんだな? 推測なんだろう?」
『……ああ……だが、あながち間違ってはいないだろう。多分……その、多分』
「多分?」
『……陵辱された』
「……は?」
 思っても見なかった言葉に、一瞬戸惑う。
 テロの襲撃と、どこをどうしたら結びつくのか……ただ、言いよどむ石川の様子から導き出されるのは、やはり言葉通りの出来事で。
「……犯された、ということなんだな?」
 携帯を握り締めた手がぶるぶると震える。
『状況からはそうだ。隊員が気付いて救出した時には、白衣もシャツも肌蹴られていて……その、下半身には何もつけてなくて……ただ、ぐったりと横たわっているだけだったらしい。本当にごめん。すまない。誰も気付けなかった。俺のせいだ。本当にごめん……西脇?』
 唇をきつくかんでいた。こみ上げてきているのは怒りなのか悲しみなのか分からない。
「……大丈夫、聞いている。それに、おまえのせいだとは思っていない」
『西脇……』
 心配げに問いかけてくるのは、隊員としてではなく友人としての優しさの声音で。
「……打撲、といったな? 殴られて犯されたんだということか?」 
『どういう状況で、どうしてそうなったかは分からない。何をどう、どこまでされているかも分からない。ひょっとしたら未遂のままで、その最後まではいっていないのかもしれないし、その様子が記録ディスクに残っているかどうかはわからない……チェックはしてみる』
「……頼む」
 ぐっとこみ上げてくるものを必死で押し殺して。
「それで……紫乃は? Drは今……?」
『ひどく取り乱していて、堺医師が鎮静剤を射って何とか眠らせてくれた。ただ……それでもずっと涙を流している。おまえの名前を何度も呼んでいて……』
「……そうか……」
『出来るだけ、俺も傍についていてやりたいんだが、事後処理もままならなくて。何だか、俺もぐるぐるしていて』
「……おまえもあんまり丈夫な方じゃないんだ。無理はするな」
 何とか平静を装って。無理矢理に仮面を取り繕って。太平洋を隔てた遠い異国の地で、自分に出来ることは何もない。
 ただ、また守れなかった。
 肝心な時に、肝心な場所で橋爪の手を放してしまう。
 あれだけ、橋爪の身と心を自分が守ると、何度も何度も誓ったというのに……
『……西脇、それくらいでおまえの気持ちは変わらないよな? DrはDrだよな? 何も変わらないよな?』
 黙り込んでしまった西脇に、縋るように石川が問いかけてきた。
「……何をどう変えろというんだよ……」
 声が湿る。こみ上げてくる苦いものが喉から溢れ零れ落ちていきそうになり、目頭をぎゅっと押さえた。
「……紫乃を頼む。おまえにしか頼めない」
『……ああ……』
 ただ、深く頭を下げて。友人に縋ることしか出来なかった。零れる熱いものを拭うこともできなくて、ただ頭を下げて。
 西脇の手から携帯が取り上げられた。そして、再び篠井が石川と話し出し、その通話は打ち切られた。
「西脇さん」
 篠井の手が西脇の腕に触れた。
「20分で帰国の準備をしてください。出来れば15分で。トランク類は私達で運びますから、最小限の手荷物だけでいいでしょう」
「……は?」
 思わず篠井を見つめてしまった。
「カナダ航空、9時5分発。バンクーバー経由で1席だけ確保できました。時間的にはギリギリでしょう」
「だが」
「迷っている時間はありません。命令です。帰国してください」
 篠井の瞳はどこまでも優しく、そしてゆっくりと西脇を促した。
 


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