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004
 篠井の目が厳しく光った。
「西脇さん、今、考えている時間はありませんよ? 考える時間なら後でたっぷりあるんですから、今は急いでください」
「あ、ああ……」
 それでも立ちすくんで、足が動かない。
「マーティも急いで着替えて駐車場へ。車は借りてありますので、運転は任せます」
「あ、はい」
 マーティはすぐ部屋を飛び出していった。
「西脇さん」
 つられて一緒に出て行こうとしたところを篠井が呼び止めてきた。
「用意が済まれたら、そのまま玄関までお願いします」
「……研修はどうするんだ?」
 現実を直視したくない、その一心だった。悪足掻きだというのは自分でも分かっている。それでも、ずるずると時間を引き延ばして、現実から逃げようとして。
「ほとんど終わっているのですから、あとは私が何とかします。それとも、西脇さんがこちらに残りますか? 代わりに私が帰国しますから」
「……いや。しかし」
「では帰るんですね?」
 そして、背中を押して部屋から追い出した。
 篠井の厳しく光る眼光の中に限りなく深い優しさを見出して、西脇はゆっくりと頷いた。


「西脇さんっ」
 西脇が足早に玄関に出ると、窓にスモークの貼られた車がその前に滑り込んできた。
 後ろから、軽い足音を立てて、篠井が走ってくる。
「乗ってください。急ぎましょう」
「ああ……」
 西脇が乗り込むと、篠井も隣に座った。
「マーティ、間に合わせてください」
「何とかします」
 音もなく車は研修所を出て、空港へと向かう。
 だが平日の早朝、どうしても通勤の車に邪魔をされてしまう。なかなか車自体が前へ進もうとはしない。マーティが軽く舌打ちした。
「普通なら、2、30分で行けるのに……篠井さん、ちょっと無理な道を通っても?」
「マーティに任せます」
「ちょっと揺れるかもしれませんよ」
 そういって、マーティは無理矢理にハンドルを切って、脇道に突っ込んだ。
 無理な道というのも道理だった。倉庫の前を抜け、商店街やオフィス街を無理矢理に突っ切り。まともに道とはいえない道をどんどん進んでいく。
 そんな中でも西脇はただひたすらに携帯を握り締めていた。
 それだけが、日本と自分とを結ぶ唯一のもののような気がして。
 きつく握り締めた携帯が震えるのは、恐怖なのか不安なのかは分からないけれど。
「大丈夫ですから」
 篠井はそっと西脇の手に触れた。
「Drなら大丈夫です。強い方だ、少々のことで駄目になるような人じゃない」
「……そうじゃない……」
 西脇はぼそぼそと呟いた。
「あんたは知らないから」
「西脇さん?」
「……Drは、テロに対しては……あいつには傷がある。体の傷は癒えても、心の傷はなかなか消えない……」
「……背中の傷、のことですか?」
 マーティがぼそりと呟いた。
「コルヒドレの時の……」
「……マーティも病院にいたっけな……」
「コルヒドレとは、あの暗殺者の? JDGも甚大な被害を受けた……西脇さんもでしたよね。確か重症だったと」
 篠井が西脇を見つめる。過去の調書には、一応目を通しているらしい。
 西脇は首を振った。
「戦って、その結果の負傷ならな……石川が拉致された時、Drも一緒に拉致された。そして、石川の目の前で体を切り裂かれて傷を抉られた。その体に電流を流された……ただ、石川を屈服させるためだけに。よく正気でいれたと思うよ。篠井さん、あんただってそうだろ? 銃弾を頭に受けた夢を今でも見るって……」
「西脇さん……」
「……未だに、何度だって夢に魘されている。忘れたようにしていても、忘れられる記憶じゃない。一度目はそれでも耐えた。2度目も同じように乗り越えられるのか……俺には自信がない」
 西脇は頭を抱えた。
 橋爪が泣きながら西脇を呼ぶ……それはあるだろう。
 だが、意識がない間も涙が枯れることはないのなら、どれだけ辛い思いをしたというのか……
 気にするな。
 そんなの、虫に刺されたとでも思っておけ。
 紫乃は紫乃だろ? 関係ないじゃないか。
 そういってやるのは簡単だ。それに、その程度で気持ちが揺らぐような、そんな薄っぺらな感情ではないと胸を張っていえる。
 橋爪が信じるまで、何度でも繰り返してやる。喉が枯れても、声が出なくなっても、それで橋爪が信じ安心してくれるのなら簡単なことだ。
 滅多には口に出来ない「好きだ」「愛している」という言葉さえ、欲しがるだけ与えてみせる。
 でも、ある意味それは諸刃の剣にもなりかねない。
 西脇が橋爪を想えば想うほど、逆に橋爪を追い詰めることになってしまうのではないか。
 橋爪が西脇を思えば想うほど、そんな西脇の気持ちを重荷にも感じてしまうのではないか。
 橋爪のことだからこそ、自分の言動がもたらす影響が怖い。
「……それでも、Drは大丈夫だと、私はいいますよ」
 篠井はゆっくりと言った。腕に手をかけ、まっすぐに目を見つめてそういってくる。
「Drのことを信じましょう。どんなに泣いて苦しんでも、心を闇に静めたとしても、きっとDrは帰ってきます。遠回りしても、きっとDrは笑ってくれます。だから……」
 それは篠井の願いでもあったろう。西脇を掴む手が小さく震えてさえいた。
「……西脇さんが信じなきゃ、誰がそれを信じるんですか?」
 西脇はゆっくりとその手に自らの手を重ねた。
「……覚えておこう」
 西脇は頷いた。


 車はようやく空港に到着し、中央ターミナルエリアに入った。
「エア・カナダでしたよね?」
「そうです」
「では、第2ターミナルの方ですよね、確か」
 マーティは居並ぶ車の列を掻き分けるようにして進み、国際線ターミナルの入り口に車をつけた。
「先に下りてください。車を停めてきますから」
「お願いします。2階で手続きを進めていますので」
 西脇を促して、篠井は車から降りた。
「西脇さん、行きましょう。ドアを開けるために」
 そして、出発ロビーでチケットの発見とチェックインをしてもらっている間にふと篠井が思い出したように西脇を見た。
「篠井さん?」
「西脇さん、銃は?」
「ああ、あるが」
「では、それもお預かりします。申し訳ありませんが、急なことで外交官としての手続きが間に合っていませんから、一般旅客として搭乗していただくことになります」
「……そうか、分かった」
 西脇はホルダーごと銃を外すと、篠井にそれを託した。
 いつも身に着けているそれがないだけで、なんとも心許なくなってしまう。
 そして、搭乗口へ向かっていると、マーティが追いついてきた。
「よかった、間に合って」
「マーティ……?」
 マーティが小さな紙袋を西脇に押し付けた。
「西脇さん、これ。機内で召し上がってください。朝食もまだでしょう? バンクーバーに着くのはお昼なんですし」
「……ああ、悪い」
「こんな時だからこそ、ちゃんと食事して、元気な姿をDrに見せて差し上げてください」
「……そうだな」
 再び目頭が熱くなって、涙が零れそうになってくる。
「明日の便で私達も帰りますから……Drのこと、どうぞよろしくお願いします」
「……ああ」
 橋爪のことを案じているのは自分だけではない。立場は違え、篠井もマーティも不安に思っている。いつもの橋爪に戻ってほしいと願っている。
 それが分かるだけに、西脇はきつく唇をかんだ。
 どうか、何事もなく無事でいてくれればいい……
「……日本で待っている」
 二人に頭を下げ、西脇はゲートをくぐって行った。


 

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