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005
 一旦アメリカを離れて隣国のカナダへ。
 そこから、一路日本を目指すが、時間の経過がじれったいほどに遅くもどかしい。
 たった一人の道行き。
 ひたすらに前だけを見つめて、こみ上げてくる感情に必死で蓋をし。
 ブロイラーのように与えられた食事をし、不安を誤魔化してはうとうとと仮眠する。
 叫びだしそうになる不安や恐怖に必死で堪えて。
 辛いのは自分じゃない。
 自分が安穏とロスで過ごしている間に恋人が受けた痛みと衝撃とは想像もできないほどだっただろうから。
 自分がいても、橋爪を守れなかった可能性のほうが高い。
 目の前に守るべき議員がいて、一般人がいるとするならば、橋爪の身を案じつつも彼らの方の身の安全を優先するだろう。
 それが西脇達の仕事だし、またプライドだから。
 それを押し曲げてまで、橋爪を守ることは出来ないだろう。
 頭の中ではそう思っているし、実際の場面でも体はそう動くだろう。
 だから、実際に隊員たちが橋爪を守れなかったとして、西脇にはそれを責めることは出来ない。
 隊員達は隊員達で、テロに相対し自分の出来る限りのことをしていたはずだ。
 どうしようもない事態が重なっての結果だったんだろう。
 それでも……
 後悔は尽きない。
 それでも、何故、傍にいてやれなかったのだろうかと。
 ひらすら、そればかりを考え続けて。 


 入国審査と検閲を抜けて、西脇は足早に空港を出た。
 たった20分ほどとはいえエクスプレスを待つ時間ももどかしく、西脇はバスターミナルへと足を運び、チケットを購入するや否やバスに乗り込んだ。
 そのとき、携帯が鳴った。
 弾かれたように西脇は顔を上げ、通話ボタンを押した。
『西脇っ』
 出るなり叫ばれて、思わず西脇は携帯から耳を離した。
「……石川?」
『今どこにいるんだ! 日本にはついてるんだろ?』
 畳み込むような石川の声に、思わず眉間を押さえてしまう。
「あー、T-CAT行きのバスの中」
『バスだと?』
「ああ……一番早いからな」
 石川の呆れたような深いため息が、電話の向こうから聞こえる。
『……約1時間後だな。誰か手の空いた隊員をT-CATに迎えに寄越すから。ちゃんと待ってろ』
「ああ……分かった」
『……おまえな、メールくらい見ろよ……』
 ぼそぼそと呟く石川に、そういえばメールすらチェックしていなかったことを思い出した。
『空港まで迎えをやるとメールしていただろうが……「いつまでも西脇さんが出て来ません」と、迎えにやった隊員からおろおろと電話があったら何事かと思うじゃないか?』
 きっと石川としては最大限の譲歩で西脇を迎えにやらせたんだと思う。
 確実に西脇を捕まえるため……西脇が現実から逃げ出すことのないよう、見張りを兼ねてかもしれない。
実際、今この場からでも逃げ出したい衝動に駆られている。
 あったことを正確に知りたい。だけど、現実を直視したくない。
 橋爪に会いたい。けれど、会いたくない。
 同じように相反する意識の中で、石川の訥々とした声を聞いて。
「……悪い。マジに見てなかった」
『まあ、いい。前もってちゃんと打ち合わせしてなかった俺も悪い』
 息を整えたらしく、深い呼吸音がした。
『……西脇』
 次に言われる台詞が怖い。柄にもなく、怯えてしまっている。
「……ああ」
『ついたら、まず俺のところに来い』
「……館内で、あなたの居場所を探すのは困難だと思いますがね」
 だからなのか。つい、嫌味まで出てしまう。
『会議室を押さえておく。そこで待ってろ。すぐ行く』
「……はいはい」
『……すぐにも医務室に行きたいだろうというのは分かるが、それは堪えてくれ』
「なあ……怪我をした連中の容態はどうなんだ?」
 橋爪のことだけでなく、怪我をした隊員達はすべて西脇の部下だから。橋爪のことに感情が優先されるとしても、心配しないはずはない。
『重傷者はいない。大事をとって休ませているだけだ……なんなら、堺医師に代わって』
「……いや、いいよ。後でちゃんと聞く……悪い、バスの中だから、さ……」
『あ、ああ、そうだよな。乗客の迷惑になるもんな。待ってるから。な、西脇』
「何を言ってるんだか……」
 西脇は口ごもってしまった。
 ありえないほどに、石川が西脇に対して気を使っている。いや、いつもの気遣いではなく、腫れ物に触るかのように接してくる。
「石川……あんまり気を使うな」
『使ってはいない。ただ……あ、いや、いい。それより、日本についたと篠井に連絡しておけ。いいな?』
 それは、まあ、心配もしているだろう。ギリギリで駆け込むようにして帰国の途に着いたんだから、書類やなんかの不備で足止めされる可能性がなかったわけではない。
「……了解」
『じゃ、またあとでな』
「ああ」
 西脇は通話を切ると、深いため息をついた。沈黙する携帯が余計に、西脇の不安を煽っていく。
 西脇は震える指で、篠井の携帯の番号を探し通話ボタンを押した。
 しばらくの沈黙のあと、コールが始まり、それはすぐに切れた。
『篠井です。西脇さん?』
「遅くにすみません、西脇です」
 西脇は素直に頭を下げた。
「先ほど、日本に到着を」
『よかったです。隊長も心配していましたから』
「石川が?」
『本当にあなたが帰ってくるのか、と。橋爪医師を見捨てて、仕事を優先するんじゃないかと、ね……それだけじゃない』
「俺がDrから逃げ出すんじゃないかって?」
 電話の向こうで篠井が微笑む気配がする。
『でも、西脇さんは逃げない。橋爪医師を見捨てない……切り捨てられない。違いますか?』
「……ああ、そうだな……」
『西脇さん。議事堂には?』
「いや、まだだ。東京のターミナルに、隊員が迎えに来るらしい」
『それならよかった』
 穏やかに、ゆっくりと囁かれる篠井の声に、何故かささくれて苛立っていた心が穏やかになるような気がする。
『ちゃんとDrとお話して下さい。そうすれば、西脇さんの不安も軽くなると思いますから』
「……ああ、ありがとう」
『西脇さん、あなたはあなたです。他の誰の言葉にも惑わされないで』
 ぐっと、西脇は押し黙った。
「……無理難題を押し付ける……」
『だって、西脇さんですから』
 軽く笑って、篠井が言う。
『西脇さんだから、ですよ。自分とDrにとって大切だと思うことがあるのなら、誰が反対しても成し遂げてください。隊長が反対したとしても、私が許可します。まあ、あなたにとってそれが必要だと思ったら、ですが』
 どこまでも西脇を認め、許そうという覚悟の上での発言なのだろう。
 石川と実際に対立することがあるのかは分からないが、自分一人でも見方になってやろうという、その篠井の気持ちが嬉しい。
「……その気持ちだけで十分だ」
 西脇は辛うじて、唇の端を上げることで何とか笑みの形を作り出し。
「ありがとうございます。副隊長も気をつけてお戻りください」
『ええ、お出迎えをよろしくお願いしますね』
 軽く笑って。普通に帰国するよ、とでも言わんばかりに笑って。
 篠井のその小さな心遣いが、まして嬉しい。
 そして、ちゃんと職務に復帰しろと。やるべきことをなして、その上で、自分のことを考えろといっている。
「わかった」
『お願いしますね』
 そういって、篠井の電話は切れた。
 少しだけ心を軽くして。
 ターミナルに滑り込んだバスから、西脇は降り立った。
 実際、この広いターミナルのどこで迎えの隊員が待っているというのか。
 西脇は小さなため息をつくと、とりあえず出口へ向かおうと足を出した。
「西脇ーっ」
 軽い声がする。聞き覚えがある声は、友人のもので。その声の方を向くと、宇崎が手を振ってきた。
「西脇、こっちこっち」
「……宇崎?」
「よかった。すれ違いにならないで。降車場で待ってたら確実だと思ったんだ」
 宇崎は満面の笑みを浮かべて、西脇を迎え入れてくれた。
「お帰り。お疲れ様でした」
 まるで、何もなかったかのように、平穏な日々を過ごしているかのように、宇崎は微笑んでいた。
 それが、宇崎なりの優しさなのかもしれなかった。

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